ゲバルトとは、学生運動で、暴力的手段をもってする闘争の事。
60年代の若者の恋と革命を描いた作品です。
全共闘、来る!!!って、ブチャラティが来る!みたいに言われてもねえ。
日本の学生運動は、第二次世界大戦後に日本共産党の影響のもとで、1948年に全日本学生自治会総連合(いわゆる全学連)が結成されたのに始まりますが、共産党の闘争方針の混乱から全学連は分裂し、60年安保を経てさらに分裂、これら分派が大学内に拠点を置き主導権抗争を続けているのが、この作品の時代である1968年(昭和43年)であります。
そして、全学連や全共闘らの左翼学生に席巻されていた大学で、これらに対抗すべく右派学生組織も結成され対立しています。チョットー!ここまでオッケー?
そもそも学生運動ってなんだったん?とか思ってるあたしにはなんかもーね、これらの組織が複雑すぎて、誰と誰がなんのために戦ってるのか、ヒジョーにわかりずらかったですね。
主人公の東儀ひろしは右翼系の学生団体「臥竜新選組」の秘密兵器として仙台から上京してきた新入生です。
サル面に袴というふざけ散らかした格好で乱闘の場に現れ、木刀一本で相手を打ち負かす古武道の達人
コードネームは「悟空」(まんまじゃん)
秘密兵器ってつまり「臥竜新選組」のために雇われた傭兵みたいな。
身バレしないように通常はノンポリ学生(学生運動に参加しない人)を装う純朴な青年です。
一方、左翼学生の側にも人知れず秘密兵器と呼ばれる謎の人物がいまして、その名を「赤い北斗」
赤い北斗の学生服のボタンはなぜか北斗七星の配列になっている
武器は三節棍と思われます。こっちも強い。
で、でも、この二人の秘密兵器という立ち位置が奇妙に思えて、つまりは長州藩における人斬り抜刀斎のような存在だと思うのですが、幕末ならいざ知らず、いかに60年代がカオスだったとしても、昭和の大学キャンバスで人を襲ったり暴力行為に及ぶのがちょっと信じられません。
作者はこの状況を三国志に模してるけど全然ピンときませんし、なんかこの時代をよく知らないので乗れませんねえ。
東儀はもう一人の主人公である、荒れる大学で花を育てている先輩女子・北条美智子と出会い一目惚れしてまいます。
美智子は可憐なメガネっ娘
実は「赤い北斗」は美智子なんですわ。
東儀は美智子がいる園芸部に入部しまして、二人は互いの正体を知らないまま親しくなっていきます。
だけどこの両者は対立する右翼と左翼の秘密兵器なんで、つまりはロミオとジュリエット的な許されない恋なわけですが、どうもこの対立構造も引き立たないですよねぇ。伊賀VS甲賀とか幕府VS薩長みたいに明確でないから。甲賀と伊賀の一族がともに服部半蔵に率いられる忍者同士でありながらずっと互いに憎悪を抱く敵同士なので、甲賀の首領の孫と伊賀の頭目の孫娘が恋仲になってたらこれは絶対ロミジュリですけど。(スイマセンあたしの好きな漫画「バジリスク甲賀忍法帖」の話でして)
美智子は優しくて可憐な娘ですが、虫をムシャムシャ食べちゃったり、そうとう変わってます。
わりと好き♡
なんか心の闇を感じますな~
激動の昭和の学生運動を、二人の運命的な恋や時代の熱にあおられた暴力などをコミカルでエンタメ色の強い仕上がりに描いてるんですけど、なんかスベってると思うし、時代の熱狂した空気みたいのもうまく伝わってこないんですよ。
つまらなくはないのですが残念な感じ。
今月発売された3巻では、美智子を裏で操る男・公方実篤の家が公方グループという戦前からの大財閥だと明らかになります。
公方は革狼派というセクトに所属するイケメンで、頭の回転の速さといい人脈といい能力はピカ一なんですが、財閥の御曹司ですから、彼が今度選挙が行われる自治会の委員長では反発者が出るでしょう。
それで同じ革狼派の幹部の長井が次期委員長になるから公方には副委員長となり自分を補佐してほしいと頭を下げてきます。
公方を守るために美智子は物陰から見守っています
こう見えて公方は曲者なのです。
長井には爽やかに「引き受けた!おれたちで時代を引っ張って行こうぜ」などと言っておきながら、その後なにげに教会のミサに美智子と待ち合わせ、なにやら背後からボソボソと呟いています。
美智子に公方からの指令が・・・
それにしてもわからないのは、どうして美智子は公方の言いなりなんでしょうね。
美智子の父親は北山泰人と言う新左翼のカリスマ的な論客で、公方が師匠と敬う人物です。
恐らく美智子は養女で、子供の頃に家が土砂崩れで全壊し家族は全員亡くなってしまったのですが、奇跡的に美智子だけが土砂の中から救出されました。助け出されるまで飢餓から土の中の幼虫を食ってたみたいで、それで昆虫食に執着するみたいです。
あと東儀の父親は炭鉱夫だったのですが、現在は寝たきりになっています。それは7年前に炭鉱でガス突出事故にあったせいなのですが、その事故に北山が関わっているらしいのです。
美智子は公方がつき合っている女である革狼派の書記・陽子から公方に近づくなと脅されます。
まあコワい。嫉妬ですわね
しかし公方がこの二人の恋心を利用している事に、まだ彼女たちは気づいていません。
悪い男だのお
美智子は公方の指示で、革狼派と自治会選挙で共闘を組む予定の民主若衆連盟が同席する飲み会を襲撃!
でたああ赤い北斗!落ち着いて酒も飲めねえな
民主若衆同盟通称民若は、日本共産党系のグループで武力革命を否定する数少ない組織です。
学生運動のグループのリーダーのほとんどは共産主義を信奉しており、武力による革命を肯定していました。彼らのヒーローは、レーニンであり毛沢東でありカストロでありチェ・ゲバラでした。
「赤い北斗」は座敷で鉄パイプを振り回して暴れ回り、参加者を滅多打ちにして、特に長井は意識不明の重体となります。策士・公方は犯人を民若になすりつける事に成功します。
その後公方は陽子を説得しました。
自分が全力で支えるからやるんだ陽子
「今こそ全共闘運動に突入するときでしょう!!」
そう叫びながら陽子は、公方に言われた通り着ていたブラウスを脱ぎ捨てましてね。
公方の奇策が功を奏し、大学は全共闘を結成したのです。
約半世紀前の学生運動の熱がいまいちわかりませぬが、社会を共産主義体制に変えようとか、ベトナム戦争をやめさせようとか、革命を起こすとか大それた事を、当時の学生全員が考えていたわけじゃなかったんですね。
大学の授業料の値上げだとか、授業の質の低下だとか、旧態依然とした大学の体制とか、もっと身近な現実問題にみんな怒っているようでした。
大学の校舎を占拠し、路上でデモを行い、時には暴力沙汰になり、負傷者まで出しながら、いったい何に駆り立てられてたのでしょう。
ただ、学生同士の主導権争いが苛烈になり、どこが多数派になって大学との交渉権を持つかみたいな争いはくだらないと思いました。
当時は大学へ進学する人は少なかったですもの、彼らはエリートでありインテリですから、大学生が政治に一番敏感だったのかなとも思いました。
しかしながらこの漫画をあたし以外に誰が読んでるんだろか?