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大人の漫画読み

漫画/「望郷太郎」⑦ 山田芳裕(ネタバレ)貨幣を制する者が天下を制す

大寒波に襲われた地球で、人工冬眠から五百年後に目覚めてみれば、世界は滅亡してた・・・イラクから祖国日本へ、シベリア鉄道を歩いて目指す元商社マン舞鶴太郎。

五百年後の世界に生き残った男が、人類がたどって来た遥かな旅路を目撃する、奇跡体験!アンビリバボーな漫画。

(山田芳裕「望郷太郎」既刊7巻)

なんか演歌っぽいけど、あたしは「望郷太郎」というタイトルがいいと思ってるんですが、舞鶴太郎は日本に帰ろうとしてるわけです。

しかしもうね、都市は瓦礫の山で人は誰もいないし、船とか飛行機とか列車とかの便利な交通機関はないんですよ。

もうね徒歩しかないわけ(もしくは馬とか)

大変なんですよ。世界滅びちゃって。

五百年も氷河期続いてたら、石器時代に戻っちゃったんですよ。

高度な文明が滅びた後の世界では、人々は原始的な暮らしにまで後退していたんです。

だがしかし、そこから村落が形成され、国家が成り立ち、経済が成長していくわけ。

つまり石器時代から人類の文明が加速度的に進化してくのを、太郎が追体験するという面白ストーリーなんです。

 

さて、太郎は現在モンゴルの辺りまで来てるのですが(よくまあここまで来たもんだ)日本は近いようでいてまだ遠いみたい。

ハイラルを南下したフンボイル平原という場所にあるのが、この地域を支配しているマリョウ王国でして、太郎はマリョウから独立したヤープト村が対等に交易できるよう交渉するためやって来ました。

ところがパルが捕まってしまいまして、太郎とハッタはパルを助けるべくマリョウの人たちにマー(金です)を使い情報を収集。

もうすでに、マリョウでは世の中マー(金です)次第ってのが嫌になっちゃう。

しかしパルは捕まってるけど、生きとる事が判明。

 

マリョウ王国ってのは、王を頂点とした階級社会なのですが、王からは独立した議会を持ち選挙も行われていまして、議員による派閥もあるし、物事は多数決で決まります。民主主義国家始まりました。(冷やし中華始めましたみたいに言ってみる)

文明は急速に進化していて、貨幣経済が成り立ち、売春宿などもあります。売春は人類最古の職業だ言いますもんね。

しかもマー(しつこいけど金です)は王から独立したマー製造所で作られておりまして、王にはマーの発行権はありません。

国と中央銀行との関係がこのマリョウにも!

と驚く太郎でしたが、もっと驚いたのが先代国王の後継者となる赤子を産み「国母様」と敬われるギョンとかいう女が、実はパルの妹のプリだったわけさ。

 

プリはマリョウへ奴隷として送られて行ったんですが、いつの間にか王の第三夫人となり、王位継承権を持つ男子を産んでたんだよ。波乱の人生ですのお。

そのせいかしら、昔の彼女の面影はなく、国の中が三派閥に分れて権力争いをしてるので、息子の将来のためにも自分の立場を優位にしたいと考えている。

しかも国母様プリの支持母体が、初代マリョウ国王から発した宗教団体だったんで、太郎ならずともビックリしましたが、まあ宗教と政治は共存してたからね。ってか、政治も経済も道徳も自然科学もかつては宗教の一部だったんですから。

いやビックリしたのそこじゃなくて~

なんかもう狙ったわけではないと思うんですが、今ちょうど政治家と某宗教団体の関わりが問題になってますんで、非常にタイムリーだと思いました(・∀・)イイネ!!

 

太郎は話の流れでマリョウの選挙に打って出る事となり、さらに紙のマー(紙幣ですね)を独自に発行しようと考えます。もうね選挙は金ですから!立候補するにも莫大な資金が必要なんです。

この国で紙幣を作れるのはプリを支持する宗教団体ですし、これはもうね、宗教団体を味方にして選挙で勝利しようっていうね。(マンガの話ですよ)

今の貨幣ってのは原石のマーを加工した石なのですが、それはマーの原石に希少価値があるからこそ成り立ってるわけです。

しかし大して価値のない紙を貨幣として流通させるには、そこは人と人との信用という価値がつかないと皆に広まりません。

そこで「国母様」であるプリが保証人になるのが一番と、いささか詐欺っぽくはあれど、太郎はプリを保証人とし紙幣を発行します。

 

ところで、この作品は最初の頃は原始的な時代だったので、野生を失った現代人の主人公がビジネスマン時代に培った適応力や交渉力で切り抜けていくのが痛快だったのですが、最近はもっぱら経済の歴史なんですよね。

太郎は、かつての自分も含め人間が金に踊らされ金の奴隷になる愚かさを経験してるため、マリョウ国の現状を苦々しく思っています。

実は選挙では下級市民は一票しか入れられないけど、上級市民は一人で五票も入れられるとかカラクリがあって、これでは民主主義国家とは言い切れません。

だから太郎は金の力でもって、この国の構造を変革しようとしてるんです。

戦いに勝つために札を作るなのよさ。

そこはもう538才だけに、何をどうすればいいのか経験則から心得ているのが太郎の強みでして安心して見てられます。さすがに人生2週目の余裕ですかしら。

それに太郎のいい所は、発達した文明社会の一員だった事をひけらかすでもなく、出会った人たちをリスペクトしてるとこです。

 

そうして太郎が考えた紙幣を広める方法はネズミ講

まず信者がマーを紙幣と変える⇒紙幣はマーとして使えると友人知人に紹介する⇒教会から紹介料として紙幣がもらえる⇒みんな紹介料欲しさにどんどん人に広めるナリよ

 

だけどイヤ~な要素も増えて来まして、文明が発達すると悪い人間がまたぞろ出てくるのであります。

若い売春婦を集め、犯して殺害する悪魔の儀式ショーみたいなのを開き写真に撮って脅すとか悪辣な奴が出てきたり。

ん?カメラあるん?なんか写ルンですみたいので撮ってましたよ。

過去の遺物を発掘して利用してますが、製造するとか高度な技は失われてるんですよね。

グラスとかも、古の透明器などと言って価値が高いようです。