藤田和日郎は、フジタワビロウではなくフジタカズヒロって読むんだよ。
「邪眼は月輪に飛ぶ」(じゃがんはがちりんにとぶ)は2007年に週刊ビックコミックスピリッツに連載された漫画。単行本一巻完結もの。
唐突でございますが、久米田康治の「かくしごと」という作品は、下品な下ネタ漫画を描いてる漫画家・後藤可久士が、可愛い娘に自分の仕事を隠そうとするドタバタ父娘愛漫画なのですが、可久士は娘の姫ちゃんが七夕飾りに「お父さんがえらくなりますように」と書いたのを見て、偉いとは何か考えます。
やっぱ漫画家ですから売れてる人が偉いと思い、今売れてる作品がダークファンタジー系ばかりだから、自分もダークファンタジーを描こうと思い立つんですが、アシスタントから売れてるのが偉いっていうのは腐った資本主義の発想と言われ、こう教えられます。
偉い漫画家とは何か?
それが「漫豪」である。
漫豪とは文豪の漫画化バージョンです。
ってなわけで、可久士が会いに行った漫豪が藤田和日郎なんです。
もうすっかり落ち着いた(売れなくなった事の優しい言い方)って( ´∀` )
そんな漫豪・藤田和日郎の作品は、ハッキリ言って画風が強烈なので見ただけで嫌う人もいますが(絵が気持ち悪いとか言われる荒木飛呂彦と二分するかも)うーむ・・・食わず嫌いはちともったいないですぞ。もったいないばあさん来ますぞ。
余談が過ぎました。
さてこの作品は、その目で見られたものはみな死ぬという邪眼を持つフクロウと戦う物語でして、なんかもうとにかくフクロウの絵がコワいです!
冒頭でフクロウを撃ち殺そうとした猟師たちはみな死んでしまいまして、たった一人残った杣口鵜平が撃ち落としたっ!
と思いましたら、突如現れた米軍によって手負いのフクロウは奪われてしまいます。どゆことかな??
それから13年後。
東京湾に米軍の最新空母が突っ込んで座礁するという大事故が起こるんですが、乗組員が全員死亡していた事が判明します。
しかも何かが捕らわれていたような檻のそばに鳥の羽が一枚。ぬぬっ
それは、誰もが味わった事のない恐ろしい出来事の始まりでした。
米軍によってコードネーム「ミネルヴァ」と名付けられていたフクロウは、逃げ出した東京を瞬く間に死の街へと変えていきます。
無慈悲にも殺される人々の描写は惨たらしく、社会は壊滅的な被害で絶望の淵に引きずり込まれます。鳥一羽のために大規模災害ですねん。
もうね、ミネルヴァに見られると死ぬ。
ルールはコレだけだから。
見ると死ぬんじゃなくて見られると死んじゃう。
平和ボケ日本人が好奇心丸出しで空を眺めてた馬鹿も死んじゃうし、テレビ中継したせいで死者が急増(理屈がわからんね)
理屈はええねん!とにかく電波に乗ろうがカメラ越しであろうが見られると死んじゃうんだから、総理大臣も死んじゃったし、420万人っていう空前の死者が出ちゃったわけ。
そこでミネルヴァを殺すためにアメリカから派遣されてきたのが、CIAのエージェントのケビンとデルタフォースのマイケル・リード准将でしてね。
彼らが会いに来たのが、かつてミネルヴァを撃ち落とした事があるという、伝説の猟師・杣口鵜平ですわ。
ところが鵜平は何かっちゅうと「オレには犬がいねえから・・」と言うだけ。
鵜平の娘・輪(りん)が本作のヒロインなわけですが拝み屋なんです。
拝み屋とはいわゆる霊能者で、昔はどこの町にでもいました。
輪に尻を叩かれ、二人はヘリで東京に向かいます。
東京では自衛隊のミネルヴァ駆除作戦が大失態を晒してまして、フクロウは夜行性だと思ってたらミネルヴァは真昼にも飛んだのです。
彼らの頭上を数百メートル旋回しただけで自衛隊二千人があっけなく死亡。もう指揮系統はガタガタ。
フクロウの目ってのは他の鳥よりも両目で見える範囲が広いそうでして、しかもミネルヴァの瞬間速度は時速340メートルと来たもんだ。運動能力ケタ違い。
これは動物最速と言われるハヤブサの落下速度と同じです。
もはや鳥じゃない何か。
ミネルヴァを狙撃するため、全米の凄腕ハンターで結成したアメリカ特殊作戦チームが登場します。
スワットとかシールズとかリーコンとか(俺よくわからんけど)の特殊部隊出身者や射撃の金メダリストなどがいるんですが、自分たちの装備が最新式なのに比べ鵜平が持っとるのは村田銃なんで、時代遅れのジジイだと嘲笑しまくり。
おまえらにはミネルヴァは撃てないと鵜平は予言し、その通りで皆死んでしまうのです。
口ばっかりで役にたたんな、おめーら!
人間たちなめるなと言うミネルヴァの声が聞こえるようです。
ここで、ミネルヴァの体内にはGPS発信機が埋め込まれていることが発覚。
実は米軍はミネルヴァを生物兵器として中東に配備しようとしていたのです。やべえ
こんなの生物兵器として使われた国は、大量に人が死んでも原因もわからんでしょ。
こうなったらもう、ミネルヴァを消すために東京にミサイル打ち込もうとしてるアメリカ。イヤンなっちゃう。
なんだかなー、漫豪の作品てこんなの多くて、社会を国家規模で壊滅させるのが好きですよね。
進退極まる中で、4人は死力を尽くし悪魔のような邪眼の鳥に立ち向かうのであります。
この擬音をさかさまに描いたりの独特描写が冴えてるけんど、夢に出てきそうで怖い。
しかし「うしおととら」もそうですが、藤田作品の悪役はどこか物悲しい。
人は人知を超えた超自然的な物に遭遇した時、自分たちの無力さに為す術はありません。
猟師の鵜平や拝み屋を生業とする輪は自然への畏敬の念を持っていますが、自分たちの銃を自慢したりたかが鳥だと銃の腕前を過信するアメリカ人たちは、力でねじ伏せようとした挙句ミネルヴァに殺されてしまいます。
獲物を畏れ、自然の前でかしこまる事の出来ない者には、誰一人ミネルヴァには勝てないと鵜平は言います。
見る者をすべて死に至らしめる宿命ゆえに仲間とつがう事が許されないフクロウ(孤独)
かつてフクロウを仕留めるために自分の女房を死なせてしまい、その事で娘から拒絶され続けてきた老人(孤独)
だから鵜平にだけはミネルヴァの孤独が痛いほどわかるんですってば。
「人間と獣にあんまし違いはねえのさ」と、ミネルヴァが♡なフクロウの石像を餌に誘導し、途中で裸足の鵜平にマイケル准将が靴屋でスニーカーを買ってあげたり(ほっこり)
しかしまあ、命をかけたこの戦いに安っぽい同情心なんてない!
とばかりに、ミネルヴァVS鵜平の最終決戦は、ケビンが操縦するハリアー戦闘機から村田銃で撃つっていうね。これがまた素晴らしい迫力なんですわ。
邪眼の鳥って、最初は寓話的なものかと思いましたが、どうしてそうなったのか、邪眼の鳥とはなんだったのか、その謎は最後まで明かされません。
しかしながらマタギってのは独自のロマンチシズムをもって、我々の想像力を搔き立てます。
この作品のテーマは、アイヤー、さすがマタギ!これか