ある日漫画界に彗星のごとく現れた感じがする和山やま氏
の2020年に刊行されたコミックス。
絶対に歌がうまくなりたいヤクザと
歌を教える事になった中学生との
奇妙な友情?
森岡中学校合唱部の部長・岡聡美は、合唱コンクールの帰りに突然男から声をかけられた。
「カラオケ行こ!」(えっ!?)
スーツをビシッと着こなしたその男は、四代目祭林組若頭補佐・成田狂児(39才)だった。
カラオケボックスに連れ込まれビビる聡美は狂児から「歌がうまなるコツ教えてくれへん?」と頼まれる。
狂児が言うには、自分はさるブラック企業に勤めていて、組長が大のカラオケ好きで、年4回組員総出のカラオケ大会が行われる。でもただのカラオケ大会じゃない。ヤクザにはいらない能力「絶対音感」を持つ組長が審査して歌ヘタ王になった者は、組長の手で刺青を彫られてしまうっつーのだ。プロの彫り師ならともかく、素人の組長に刺青を入れられるのは無駄に痛いうえ、絵心もないから出来上がりがクソやねん。俺だけやない。他の奴らもみんな必死に歌の練習コソコソしとんねん。でも兄貴がヤマハの教室に入っていく姿は見たなかったわ・・・・というね(笑)
果してこれは本当にヤクザの話なのだろうか?と、耳を疑う聡美は狂児から歌のコーチをしてくれと頼まれてしまうのである。
狂児の十八番はXJAPANの紅だーーー!!
とりあえず一曲聞いてくれと言われたものの、予想外に毒舌な子だった聡美。
「終始裏声が気持ち悪いです」と率直すぎる感想を言ってしまい、「ずっとこの一曲で勝負してきたのに・・・」と狂児はショックを受ける。仕方なく聡美は、好きな歌と得意な歌は違うのだから自分に合った歌を習得すべきとアドバイスする。
狂児に気に入られてしまった聡美は、自分は全く気乗りしないまま、合唱部の練習のない火曜と金曜は狂児に拉致されてカラオケ店に行き、彼の歌をフリータイムで聴く羽目になってしまうのである。
とまあ、ザックリこんなあらすじなのですが、みんなでカラオケに行って「イエーイ!」みたいに盛り上がる話ではないんです。
あくまでテンションは低く、独特の間とセリフの面白さがじわります。
ネオン瞬く雨の街角で聡美くんに傘を差しかける成田狂児を描いた表紙の絵、好きだわあ~映画みたい♡
(と思ったら、どうやら実写映画化が進んでるらしいなのよさ)
背後に停めてある黒塗りのセンチュリーは狂児の愛車。
車も靴もピカピカですやん。
和山氏はまだ若い方なんですが、なんかヤクザの描写が暴対法施行以前の昔のヤクザですよね。
刺青入れられるのが嫌だから歌がうまくなりたいとか、真面目に頼んでくる所がおかしいのよね。
こんなヤクザいねえだろ!?と思うけども、狂児のにじみでるおかしみが憎めなくて親近感さえ覚えちゃう。
一方、フツーの中学生である聡美にも悩みはありまして、そろそろ変声期を迎えそうで高音が出づらくなっていたのです。
聡美は中3ですから、遅い方じゃないかしらね。
少年合唱団などで活躍する子にとって声変わりは重大な問題でして、有名なウイーン少年合唱団だって天使の歌声は変声期までの期限付き。
それはただの中学の合唱部であっても同様で、せっかく3年生最後の合唱祭でソリストに選ばれたってのに、このところ喉がもうギリで苦しくて、なんだか自分の声に裏切られたような気になっていました。
そんな悩みを抱えてるからヤクザに歌を教える余裕なんかないと思うのですが、狂児は「カラオケ行こ~」とやって来るんですよー。アッチョンブリケ!
ヤクザにビビってオドオドと怯え切った表情は気の毒なくらいですが、それでいて聡美けっこう毒を吐くわけ。言いたい事はけっこう言うわけ。
狂児がカラオケ店にヤクザたちを集めて聡美にアドバイスしてもらおうとした時も、ビビりながらも毒舌が過ぎて「なんやと!小僧!!」ってスキンヘッドを激怒させてしまい、その場がメチャメチャ紛糾しちゃいまして。
狂児が自分をかばうのをいい事に「狂児さんが正直に言え言うたんです。殺すのならこの人を殺してください!」と必死の形相で狂児のせいにしたりというね。
聡美の家族も面白く描かれていますし、ヤクザの組員も家族のような雰囲気を醸してて、いやらしさはありまへん。
あと、中学生とアラフォーのジェネレーションギャップな会話も妙味で「最近の中学生は何歌うの?三代目米津玄師?」「米津玄師は一代しかいないですよ」とか超ツボでしたね。
狂児もなんかお茶目で優しいんですよ。
聡美の前では煙草を吸わなかったり、学校の課外活動でイチゴ狩りに行こうとした聡美をカラオケに誘っちゃったから「ほんまは行きたかったんやろ」って帰りにスーパーでイチゴを箱で買ってくれたり。
以外とあつかましい所のある、まだ子供な聡美を寛大に受け止めながら、眺めて楽しんでる風が良いデスナ。
何気にダッシュボードの中に指が入ってるとかエグイのに、度胸と男気のあるとこがカッコよくてね、古き良き時代のヤクザが帰って来たようです。
来てはいけないと言われてた事務所がある場所へ、聡美は狂児を心配のあまり来てしまい、案の定ヤクザに絡まれまして、恐怖に震える聡美の前に颯爽と現れ助けてくれる狂児。
飛び散った血が聡美にかからぬように手の平で受ける。
はうあああ!かっこよ
これを読むと、そこはかとなくカラオケ行きたくなるかもです。
絶対音感を持つ組長さんも、パンチパーマも、スキンヘッドも、前々回歌ヘタ王で手の甲にキティちゃんを彫られた人も、コワモテが真剣に顔突き合わせてカラオケ大会開催中。
人間のユーモアが絶妙に描かれてまして、人は生き方も考え方も違うものですが、登場するキャラはみんな愛すべき所があって、嫌な人がいません。
矛盾や滑稽の中にさりげない優しさがあって、噛み合わないようで噛み合ってくのも上手いし、この漫画が人気があるのもわかります。
世代や立場を超えて繋がる男同士の関係性もいいです(・∀・)イイネ!!けども関係性萌えなだけでBLではございませんよって。一応な。
なんかむしょうに紅が歌いたくなる。
しかしこの漫画の教訓は、紅は一般的な男性が歌うには難易度が高すぎる!特に平均より声が低い人は一生歌うでない!それ。
狂児がヤクザになる前のカラオケ店のエピソードを描いた書下ろしも同時収録されてます
ユニーク過ぎる男子高校生の日常を淡々と描く異色の青春群像劇