akのもろもろの話

大人の漫画読み

漫画/「平和の国の島崎へ」原作 濱田轟天・画 瀬下猛 感想

日本は平和ぼけな国だと言うんですが、それは重大な問題だと思い始めたのよ。

「北朝鮮からミサイルが飛来するからただちに避難しろ」って言われてもアータ!いったいどこにウクライナのような身を守れるシェルターがあるのかな。

避難所はあってもそこはシェルターではないわけで。

中国や北朝鮮からミサイル攻撃を受けた場合、あたしゃどこへ逃げたらいいのさ(;´д`)トホホ

せいぜい地下鉄とかデパ地下とか身を隠せる場所に逃げ込むくらいですよね。

これが日本の避難システムの現状だと思うとなんかお粗末じゃないですか。

戦後78年だっけ?日本はずっと戦争がなかったから、もちろんそれはとても素晴らしい事なのですが、この平和がずっと続くと信じて来た結果、周囲から置いてけぼりにされて平和ぼけ国家になってしまったなんて嘆かわしいことですよ。

(「平和の国の島崎へ」既刊2巻)

などとエラソーな書き出しで始めてみましたよ。

この作品はざっくり言うと、子どもの頃に国際テロ組織に拉致され戦闘工作員にされた男・島崎が日本に戻り平和に暮らそうとする話なんです。

今から30年前、羽田発パリ行きの飛行機が国際テロ組織LEL(経済開放同盟)によってハイジャックされ中東のLEL勢力圏内に強制着陸、乗客全員が拉致監禁される事件がありまして。乗客たちは殺害されるか、洗脳されてLELの構成員としてテロリストにされたというね。コワイ

島崎は当時9才。LELにより訓練・教育を施されて成長し、中東・アフリカ・ヨーロッパ各地で活動するテロリストになり・・・もうっ!なんたる非道ヽ(`Д´)ノプンプン!・・・という苛酷な人生を生きてきた男なんです。

現在39才になった島崎は地味な中年メガネで日本語はたどたどしく漢字も読めません。

組織からの脱出に成功し祖国に帰って来て、今は同じような過去を持つ仲間と共同生活をしています。

コミュニティと言ってるので支援者団体のようなものがあるのかもしれません。

絵を描くのが好きなので漫画家のアシスタントをしたり喫茶店でバイトしたり日本の社会に馴染もうとするんですが、組織の追っ手が命を狙ってくるため結局戦わねばならぬ定めのアクション・ハードボイルドです。

まず「子どもの時にさらわれ中東でテロリストにされた」というキャラ設定が絶妙なので「こんな話あるかよ!?」とは思わないし今目の前の現実として起こりそうでリアルです。

なので格闘や銃器の腕前はもちろんのこと、戦闘の感覚も研ぎ澄まされてるし平然と人を殺せるんです。スゲー強いんです。

それに島崎には常に公安の監視がついてることも、やっぱただ事じゃありません。

でもこの作品は「一般人かと思ったら実は無双な主人公」が活躍するというよりも、戦場帰りの主人公の目に平和な日本はどう映ったか?という視点で描かれています。

「日本人は平和ぼけだねhahaha」と嘲るかと思いきや、彼が出会った若い漫画家やアシスタントの女性や喫茶店の店主などの人の温かさ優しさに安らいでるように見えるんですよね。

平和な国は人の心も平和っていう、そんな当たり前のことが困難な国が世界には多くあるのかもしれません。

世界の紛争地域を渡り歩き、様々な食べ物を知っている島崎は、例えば東アフリカでよく飲まれてるという塩入りコーヒーだとか(塩気で酸味を抑えるらしい)、トルコの屋台料理のサバサンド(本来は焼きサバと野菜を挟むがサバ缶で代用)など日本人には珍しいものを作ってみせる場面はどこか細やかです。

何気ない料理場面や絵が好きで戦闘の合間にも写生をしてたことなどから、彼は戦争体験で壊れた人間じゃないとわかります。

心の豊かさを取り戻し日本に馴染みたいと謙虚に努力する姿も、ちょっとはにかんで見せたりキュートなんです。

お望み通りに平穏な暮らしをさせてやりてえな~

公安警察も監視しながら「問題を起こさないでくれよ」と言ってるのが、なんか見守ってるようにも見えます。

思わず島崎の幸せを祈っちゃうんですが、そうは問屋が卸しませんよ。

まるで抜け忍になって逃走するカムイが追っ手の追い忍に狙われては打ち負かしていくかのように、LELの潜伏戦闘員が襲ってくるんです。

この暗殺者は普通の日本人のオジサンでしてね、会社員で子どももいて一般人として生活してるんです。コワイワネー

①巻でこのオジサンを確実に返り討ちにしたはずが、②巻で実は生きてて再び戦う羽目になります。

戦いたくないと思いながら戦わなければならないジレンマに、島崎が望んでいる暴力から離れた平穏な生活はどんどん遠ざかって行くんですよね。

不憫だけどやっぱ公安警察が危険視するのも仕方ないことで、平和な国の日本には危な過ぎる人物なんです。

また、共同生活している仲間も戦地の記憶に苛まれて一般社会に馴染めない日々を送っていて、ありきたりですが平和について考えてしまいます。

読めばわかるのですが各話の最後に「島崎が戦場に戻るまであと○○日」とカウントダウンが記されています。

つまり今は日本で暮らしているけどまた戦場に戻る未来が示唆されているわけです。

虚しいですわ。ちくしょー

しかしながら島崎の「人間は夢想で心をまもります。暴力は人間の心の中にはふみこめない」という言葉には、暴力の世界に生きて来た島崎が暴力の無力さをわかっているんだなとしんみりするわけですよ。

国家の指導者の平和ぼけは困りますが、庶民が平和ぼけしてるのは幸せな社会の証明でこれはこれでいいのかもしれません。と「テキトーなやつだな」と見下されそうな終わり方。