「光が死んだ夏」なんだか陳腐な青春漫画みたいなタイトルだね
などと思いながら、あたくし開いたのですが衝撃の滑り出し。
冒頭いきなり黒髪の少年が蝉しぐれの中でアイスを食べながら
「お前やっぱ光ちゃうやろ」ともう1人の少年に言うわけです。
するとその子はたいそう驚いた表情で
「完璧に模倣したはずやのに・・・」
とつぶやくと顔が半分溶けだしてしまうんです。
わーなんだこれー!
「寄生獣」みたいな話だったのー?
もう前菜も食べずいきなりメインを出されたみたいな気分でして、最初からめっぽう面白いです。
2人の少年はとある村の集落で暮らす高校生のよしきと光という幼馴染なんですが、光は村の「禁足地」と言われる山に入り行方不明になって一週間後に帰って来たんです。
しかし何か違和感を覚えたよしきは「こいつは光の姿をしてるけど光ではない」と気づき前述の問いかけになるのですが、光に見える何かは「お願い。誰にも言わんといて」と泣きながら懇願してくるんです。
初めてヒトとして生きて学校も友達もアイスも楽しかったから、お前のことが大好きだからお前を殺したくないから、などと必死でしがみつきながら言うわけです。
その結果よしきは「どちらにせよ光はもうおらんのや。それやったらニセモンでもそばにいてほしい」と思い受け入れてしまいます。
よしきの当惑とは裏腹に、光は学校や放課後も楽しそうに映画を観て泣いたりコロッケを買い食いしたりで高校生の日常を無邪気に満喫してるように見え、よしき以外誰も気づきません。
このあたりの描写は地方の高校生の青春ドラマテイストになっており、よしきと光を含む仲良しグループの描写が楽しいのだが、行動を共にしながらも光の言動の一つ一つにやっぱ「光じゃない」事実をよしきは突きつけられてしまいます。
よしきは内向的で抱え込むタイプなんです。
ひとりモヤモヤと悩んでるうちに、村では老婆の怪死事件が起こり、よしきの周りにも不可解な出来事が起きるようになります。
とまあそんな内容でしてね、村で同じ年頃の子どもがいないせいもあり兄弟のように育って、両親の不仲や妹の不登校など家族の問題を抱えるよしきにとって(また田舎アルアルで人の口がうるさいのだ)光が救いだった事がわかります。
もちろん単なる青春物語ではなく、何やら作品全体を不穏な空気感が覆っていて、得体の知れない脅威が忍び寄るホラーなんです。
漫画表現では不気味な感じや緊張感を醸す描写がなされていまして、蝉の鳴き声が「シャワシャワシャワシャワシャワシャワ」と紙面を埋め尽くしたり擬音で異様な雰囲気を演出したりと巧みで、ぼぎわんが来ちゃう感じです。
光自身は言及してませんが、どうやら光の中に入ったのは禁足地の山にいた「ノウヌキ様」または「ウヌキ様」と呼ばれるものであるらしい。
「一緒にいたらあかん!」と、よしきと同じ体験をした主婦から諭され、光を拒絶しようとするんですが、先様はよしきの事がそうとう大事らしく「お前を好きなんやめられん!!」とか泣きながら叫ぶのです。
ブロマンス的な味付けがちょっと意外でしたが、それよりまるで母親を慕う幼子のような光をよしきは自分が面倒見なきゃという考えに至り、主婦の忠告は無視する形になってしまう。
とはいっても、薄暗い林の中に「く」の字を見たり、風呂場にカツラお化けが出現したり、優しいゆえに引き寄せる体質っぽいよしきなので、光が守ろうとします。
なんだか探り合いながらも2人の距離は縮まったかに見えます。
しかるに仲良しグループの朝子から「あなたは誰?」と問われた光はバレたと思い咄嗟に朝子を殺そうとする挙に出てしまう。
よしきに見咎められた光は
「死んどるのと生きとるのでそんなに違うん?」
「生きとる方が大切なん?」
と言いだし、生と死が曖昧で命の意味もわからずにいることによしきはショックを受けます。
なんせノウヌキ様って実態を持たない大きさもわからない得体の知れないものだから(それ以外書きようがない)そりゃ命の重さだとかはわからないでしょうよ。
それによしきだけ特別に大事にすることにも矛盾を感じます。
作中とにかくよしき大好きで懐いてるのを友人たちも認識してるのですが、亡くなった光の父親は「ウヌキ様は寂しがり屋だから大事な人を連れて行ってしまう」だから「好きな人が出来たら早く結婚して忌堂家の人間にしてしまえ」などと言ってましたね。
光の忌堂家というのが山にウヌキ様を封印するような役割をしてたみたいね。
じゃ寂しがりのウヌキ様がよしきに執着するのは、死んだ光がよしきを好きだったからでしょうか?
それはあたしの勝手な推測ですが、読んでてとても悲しいと思うのは、光が別の何かにすり替わっているとわかりながら一緒にいることを選んでしまったよしきの心です。
たとえ人間ではない何かに変わってしまっても一緒にいたいと思うのは愛です。
えー?では、よしきも光を好きだったのだろうか?
どう転んでもこの先2人にハッピーエンドの予感はない。