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映画/「さらば、わが愛 覇王別姫」懐かし映画感想

7月に4K版が全国で順次公開!スクリーンでレスリーに会わねば

幼い頃から京劇養成所で厳しい訓練を受けながら兄弟のように育った2人。

しかし子どもを京劇役者として育てしかも至難の芸を身につけさせるというのはまさに極限の行為である。

過酷な指導は子どもの自殺者が出るほどで現代なら虐待と批判されるレベルだ。

成長した2人は立役者の段小樓と女形の程蝶衣としてコンビを組み「覇王別姫」の演目で当たりを取る。

蝶衣は小樓に思いを寄せているが、小樓は娼婦の菊仙と結婚してしまうというね。

とまあ、そんな内容なのだが、蝶衣を演じているのは香港の大スターだったレスリー・チャンでして、豪華な舞台衣装に身を包んだレスリーの美しさは格別なのよ。

この10年後にホテル「マンダリン・オリエンタル香港」の24階から飛び降り自殺することを知っているだけに、程蝶衣の悲劇的な人生と重なり切ない。

映画は1924年から1977年の50年に渡る中国の近代史と京劇の盛衰と2人の男の関係が描かれる俺好みの大河ロマンなり。

中国の伝統芸能である京劇は前半部で描かれる時代がピークで、1966年からの文化大革命による弾圧で衰退してしまった。

毛沢東崇拝乞食による所行で古典劇の上演が全面禁止となり多数の名優が迫害死したのだ。

特に女形が狙われ京劇の女形文化は滅びてしまった。

中国人は馬鹿な事をしたものだ。

なぜ、わざわざ男が女を演じるのか。

その理由はレスリーを見ているとよくわかる。

磨き上げられた芸で男が女を演じるという事は本物の女が演じるよりもずっと魅力的だ。

蝶衣の作られた美はいびつで倒錯的で妖艶な魅力を放ってくる。

レスリーがまた美しい容姿とたおやかな所作でもって彼が現れると画面がパっと華やかになるんである。

この役は「ラストエンペラー」のジョン・ローンがやるはずだったけれど紆余曲折がありレスリーになった。

ジョン・ローンは素敵なイケメンで京劇の素養もあるけれど、彼の才走った目よりレスリーの柔和な目が蝶衣には合っている。

京劇シーンは衣装もメイクも舞台もゴージャスで観ていて飽きないなり。

母親に捨てられ京劇の世界しか知らず大人になった程蝶衣にとって、京劇と段小樓への愛だけがすべてだ。

「小樓と離れるなんて考えられない!一生僕のそばにいて!」と懇願する姿はスリリングで小樓はまるで蝶衣から逃げるように女と結婚してしまう。

レスリーもいいけどコン・リーもいいのだ。

娼婦から抜け出すために小樓を利用するしたたか女で、勝気で男だけの伝統の世界に猛然と口出ししてくる。

蝶衣から見れば邪魔者でしかないが、彼女は彼女なりに自分の幸せを追い求めようと懸命に生きる。

2人の男と1人の女の愛と憎が渦巻く壮絶な三角関係だ。

しかも主人公は同性愛者もしくはバイであるからしてドラマはより複雑かつ悲劇になっておるよ。

はあ~(ため息)

劇中劇となる「覇王別姫」は垓下の戦いで敗れた楚の項羽が追い詰められて死を決意し寵姫の虞姫が殉じる悲恋の物語だ。

舞台で虞姫を演じる蝶衣は楚王と虞姫の姿に自分と小樓を重ね彼だけを愛していた。

どんな階級の人にでも全力投球で演じる蝶衣の舞台は素晴らしいが、絶望のため阿片に溺れ私生活は滅茶苦茶になってしまう。

すべては小樓のせいなのだが、男が離れていく寂しさについきつく当たると小樓は小さくなって謝ったり、まるで熟年夫婦のようで可笑しい。

どんなに決別しても2人は「覇王別姫」の楚王と虞姫としてしか生きる道はなく、気づけばまた同じ舞台に立つ巡り合わせである。

蝶衣は役にのめり込みすぎて現実との境界がよくわからなくなってると言われる。

長い間恋人同士を演じているうちに小樓の中にも虞姫を愛する楚王がいて、2人は不変の愛で結ばれてるようにしか思えない。ってか、思いたい。

国民党政権時代、日中戦争から始まる日本統治時代、第二次世界大戦、共産党政権樹立、そして文化大革命による混乱の時代、中国の変遷の中で2人の関係がどうなってゆくのか。

究極のメロドラマと言えるよく出来た構成だけど、レスリーは小樓役のチャン・フォンイーの演技の解釈が気に入らなかったみたいだ。

確かに映画の中の小樓はそこまでの男かよと首を傾げたくなる気もするが。

中国共産党よりも鬼畜日本軍の方が京劇文化を理解していたと思える皮肉な描写もある。

この映画は1993年にカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したのに、そういった描写や文化大革命や同性愛が理由らしく当時の中国ではすぐに上映されなかった。

それはそうと、京劇は北京オペラとも言われ女形の超絶技巧な歌声が見ものでして、口パクは仕方ないけれど、今観るとレスリーの京劇はちと物足りない気がしてしてしまうな。

チェン・カイコー監督はかつて文化大革命の先棒を担がされたという苦い思いからか京劇大好きで、2008年には再び京劇の全盛期に登場した天才的女形・梅蘭芳の生涯を描いた「花の生涯・梅蘭芳」を撮った。

この映画で梅蘭芳の青年期を演じてる余少群の京劇が素晴らしくてね、佇まいが非常に美しく、ただしその後成長すると梅蘭芳役はレオン・ライに交代してしまい、恰幅が良すぎて見る価値がない。

梅蘭芳先生は文化大革命の前に亡くなって幸せだった。