言わずと知れた手塚治虫の有名漫画作品。
その血を飲めば永遠の命を手に入れられるという「火の鳥」を巡って、ちっぽけな人間たちがすったもんだする壮大な物語なの。
望郷編は「火の鳥」の第8章で、ロミという一人の女性の一生と惑星エデン17の盛衰が描かれたSFですのよ。
なぜ今「望郷編」がアニメ化?
「火の鳥」を読みたいと思った時にまずわからなくなるのが、種類が多すぎて「どれを読めばいいのか?」ですねん。
複数の出版社から出ているのだが、それぞれに手塚治虫による加筆修正がなされていて中身が一緒じゃないのよさ。アッチョンブリケー
特に「望郷編」はご本人により何度も書き直されていて、雑誌掲載時、各出版社版で内容が大きく変わっているそうだ。
まあ俺もそこまでコアなファンではないし、よくわかんねーので、今回読んだのは購入しやすいkindle版。
さて、あらすじ。
ジョージとロミは悪徳不動産屋に騙されて、人間には住めない過酷な環境の惑星エデン17を買ってしまう。
この星には水がなく地震が多いとわかったが後の祭り。
なのに地球はめっちゃ遠い!(通信しても届くまでに2年半もかかる)
なんとか地下水を掘り当てたものの、ジョージはその時の事故が原因で亡くなってしまう。
1人残されたロミはジョージの子供を産み落としカインと名付けた。
でも、この子はやがてひとりぼっちになって死んで行くだけなんだよね。
思い悩んだ末にロミがとった手段は、自分がカインの子どもを産むことだった。
決断したロミは冷凍睡眠技術で20年の眠りについた。
ウブなカインに子作りを迫るロミ
20年後にロミが目覚めると、カインは立派な青年に成長していたが、「俺の母さんはロボットのシバだ!」なぞと言いロミを拒絶するのだった。
そこでロミはシバを破壊し(コワイ)ほとんど強制で一緒に暮らし始める。
最初は拒否ってたカインも料理上手に手懐けられ、次第にロミを愛するようになった。
男ってちょろいわね。
ロミはカインの子どもを7人産んだが、全員男だった。
ある日、山崩れに遭いカインは下半身不随になってしまう。
おまえは強い女だ
おまえならできる
子どもたちが大きくなるまでもう一度眠ってくれとロミに頼むカイン。
「ええっ(汗)」とたまげるロミの表情がすべてを物語ってるよね。
嫌だ!嫌だ!こんなの!
でもロミは悟り冷凍睡眠室へ再び入った。
その間カインは、ロミの話や地球という星の話や自分が知る限りの知識を子どもたちに授けた。
しかしエデン17に凄まじい日照りが襲い食料が尽きてしまう。
大きくなったカインとロミの子供たち
生き延びるためには、誰かが犠牲になって皆の食料になるしかない。
くじを引こうとした時、カインが「俺が皆のために喜んで食料になろう」と言い出す。
「俺の愛していた女の側で死にたい」というカインの最後の願いを聞き、皆はロミが眠る冷凍睡眠室の側へカインを運び殺害した。
ロミは再び目覚め、長男のロトとの間に4人の子をもうけたが、女は産まれなかった。
7番目のセブは愚鈍な大男でして、一番食うから兄弟間のトラブルの元だった。
セブは「自分だったらロミに女の子を産ませられる」などと根拠のない自信を持ち、ある日思いあまってロミをさらい逃走する。
兄弟でロミの取り合いをしてはならぬとカインに戒められていたのに・・・
セブを諭すロミだったが、ロミを独り占めしたいセブは絶望し、1人で火の山へ行ってしまう。
残った兄弟たちは、男しか生まれないのは動物の肉を食べないからだと、セブを殺してロミに食べさせようと考えていた。
嫌だ~こんな生活!
ロミは再び冷凍睡眠に入った。
近親相姦の弊害なのか、何度繰り返しても女の子が生まれない。
男の子はロミを取り合い殺し合い寸前。
キツイっす。
あまりにもミジメな人間に同情したのか、基本見てるだけで何もしない火の鳥が、今回はひと肌脱いだよね。
ロミに異星人との混血を提案し、エデン17にムーピーを一体連れて来たのだ。
ムーピーは「火の鳥」シリーズに何度か登場する不定形生命体でして、相手の意志をくみ取りいかなる姿にも変形できる。
セブはロミの姿に変身したムーピーと結婚し、娘が大勢生まれた。
娘たちはセブの甥っ子と結婚し、地球人とムーピーとの混血はさらに結婚し子を産み増えて行った。
彼らのおかげでロミが目覚めた時、首都のエデナには立派な街が出来ていて、たった1人の地球人となったロミは「女王さま」と崇められるようになっていた。
ヨカッタヨカッタ。
結構なことだが喜んでばかりいられないのが人の心の難解さだ。
女王さまになったロミとムーピーのコムちゃん
ロミは望郷の念に駆られ、一度だけでいいから地球へ帰りたいと考えるようになっていた。
人間の平均寿命が150才で、ロミは130才くらい。
もう若くないから故郷へ帰りたいと思う気持ちはわかる。
わかるけど地球は遠い。
それに皆がロミを慕っている。
それでも地球に帰りたいのだ。
前半はおぞましいほどのロミの苦労が描かれたが、後半がムーピーと人間の混血児・コムをお供に地球を目指す冒険譚になっている。
ひょんなことから2人に同行することになる地球連絡員の牧村と、雌雄単体の変わった種族ノルヴァが加わり、コムの念力が飛ばす岩の舟に乗って旅をする。
途中立ち寄る、おいしい空気や緑を見せて生物を誘い寄せ捕食する「食人星」や、たくさんの大きな丸い石が並んで転がり理性を持った者のように攻撃してくる「鉱物が進化して主権を握っている星」だとか、SFらしくちょっと面白い。
クライマックスで描かれる、平和だったエデナの堕落と崩壊は、旧約聖書のソドムとゴモラの滅亡のようでうまい感じがする。
ただ読後感としては、色々話を詰め込みすぎじゃないかしらね。
そんなに何度も加筆修正したと言うのも、ストーリーに瑕疵があったからじゃないかしらん。と思ってしまったね。
どんなことをしても子孫を残さねばという感覚が、現代日本人にはもはや不得要領なのである。
牧村が死んだロミの遺体をエデン17に埋葬し、サン・テクジュペリの「星の王子さま」を泣きながら読んで聞かせるラストシーンに至っては、ちょっと巨匠どうした?と思わずにいられなかった。