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大人の漫画読み

漫画/「死役所」24巻 あずみきし 感想(ネタバレ)

「死役所」は「月刊コミックバンチ」(新潮社)にて2013年から連載中。

あの世とこの世の境目にある、市役所ならぬ「死役所」は死後に自分の死の手続きをする場所。

自殺、他殺、病死、事故死・・・「死役所」には色んな死者が訪れる。

(あずみきし「死役所」24巻 新潮社バンチコミックス)

「死役所」24巻読みました!

今月は何かと野暮用が多くなかなかブログが更新できないわ。

「死役所」は1~2話で完結する短編漫画なので、最初から読まなくても、途中から読み出しても大丈夫。どの巻も面白いしハズレがないです。

人は死んだら死役所へ行き、四十九日以内に成仏するか、もしくは冥途の道を彷徨うかを選択します。

成仏して天国へ行けた人は、目出度く生まれ変われるという設定です。

人の死因というのはこれがもう様々でして、色んな死者がやって来るんです。

中には突然の死だったため自分が死んだことさえ気づかぬ人もいるほどです。

彼らは死役所で手続きすることで、自分の人生と向き合い、わが身の来し方行く末についてつくづく考えるわけです。そこにはドラマがあるんです。

また定番キャラの死役所の職員たちは、全員が元死刑囚なのであります。

死刑囚は自らの死をもって罪を償う。ってことに日本の法律ではなっておりますが、果たして本心では反省しているのだろうか?たとえ死刑になっても許せない!などと被害者の側は納得してないかもしれません。

死刑の在り方も含め非常に複雑なのです。

死刑囚たちが自分の罪や人生に向き合うために死役所の職員は死刑囚が務める、ってことになってるようです。

 

さて、今回は人間に寄り添うパートナー・介助犬と出会った車椅子ユーザーの女性の人生「ポルカ」。

仕事帰りにバイク事故に遭い車椅子生活となった安場さんは、元来が気を使う性格のために他人の世話になることが辛いのです。

生きるために日々たくさんの介助を必要とする生活。

日本人は「人に迷惑をかけてはいけない」と小さい頃から教わりますからねー。

そんな規範に縛られて、人から支えられることが恥ずかしいとか申し訳なく感じてしまう。

勤めていた会社から事務の仕事で再雇用してもらえるなど恵まれている反面、「障害者は感謝を怠ると嫌われる」とか「常に申し訳なさそうにしてなきゃダメ」と卑下してるもんでストレスから酒量が上がるばかり。

気の置けない車椅子の友人と部屋できこしめして愚痴るシーンが愉快です。

その友人のすすめもあり、彼女は介助犬と暮らすことになるわけです。

安場さんと介助犬ポルカ

介助犬は手足が不自由な人の代わりに物を拾ったりドアを開けたりしてくれます。

ああもうこれだけでどんなに感動的な話かわかりますよねー?

犬ってさ、特にこういうお仕事をする犬って、賢くていじらしくて、うおおー!俺が子どもの虐待の話と犬の話には弱いと知っての狼藉か~!?

ってなわけで、元は彼女は「働かされる犬がかわいそう」なんて思っていたのですが、それは人間の一方的な考え違いであって、犬はただ自分のすることで大好きな人間が喜んでくれたら嬉しい!の一念なんですよね。

彼女はポルカのおかげで仕事も一人暮らしも出来たし、ポルカを連れて何度もひとり旅をしました。

彼女が自立した人生を送れた横にはいつもポルカがいて、飲み過ぎて肝硬変で亡くなるまでポルカは病室にいて彼女を励ましたのです。

これはとってもいい話でしたね。

こんなに利口な介助犬ですが、チョロっと「日本介助犬協会」のページを見たら、日本で活動してる介助犬の実働頭数は57頭しかいないそうですよ。少なっ。

世の中の介助犬に対する認知の低さ(店に入ろうとしたら犬は断られる)など、考えさせられる内容にもなっています。

 

お次は殺された地下アイドルと、彼女に会うため後を追ったストーカーの人生「虫めずる君」。

昆虫食を提供する変わった店の従業員で結成されたアイドルグループのトアに夢中な男・富郎。

古来からイナゴなど食してきた日本人でありますが、えー?実際どうなの?ムシとか食える?

ムシムシアイドルのトアからタガメの握り寿司とかお勧めされ、富郎はトアのために頑張って食わねばと必死。

その実彼女にアクセなど貢いでて利用されてるだけのアホ男やんけと思ったら、とんでもないストーカー気質だったのよ。

彼女が店のオーナーに殺害される悲劇が起こり、富郎は大切な彼女を守れなかった不甲斐なさと彼女の側へ行きたい一心で自死してしまう。

なぜそんなことをしでかしたかと言えば、自分は彼女とつき合っていると強く思い込んでいたからなんです。

問題は死役所で再会を果たしてからでして。

つき合ってると完全に思い込んでる男

ホントにもー、勘違いだと言っても全然聞かないし、迷惑なのに自覚はないし、何を言っても自分のいいように解釈して現実を見ようとしないアカン奴。

殺されたうえに、頭のおかしいストーカーに死後まで付きまとわれるトアは誰かを待っている風でした。

実は彼女は自分を殺したオーナーが来るのを待っていたんです。

このオーナーといい、富郎といい、アイドルに群がる男たちはどこか歪んでまんな。

 

ラストは49日を巡る死役所のドタバタを描いた「49日の過ごし方」です。

様々な死者の人生が語られるだけでなく、シ村たち死役所の職員の物語も絡み、少しずつ明らかになってきたのですが、どうやらシ村の過去を知る人が死役所にやって来たもようです。

シ村は冤罪で死刑になったことがわかっています。

死について考えるって重いわね。

しかしどう死ぬかということは、どう生きたかということでもあります。

毎話の最後を飾る、その人の人生を振り返るアルバム風写真の描写がいつも胸にグッと来るんですよね。

どんな人にでもかけがえのない人生があったことを言葉よりも雄弁に語っています。

巻末の業務報告書も面白くて、作者様の人柄が知れて良いです。