「環と周」(たまきとあまね)は、「ココハナ」(集英社)にて連載された漫画作品。
「大奥」「きのう何食べた?」などのヒット作を持つ、よしながふみの最新作。
「環と周」読みました!
「きのう何食べた?」の新刊22巻と同日に発売されてまして、これは両方購入するでしょう。( ゚д゚)ウム
内容は様々な時代に生きた、「環」と「周」という名の2人の人物の愛の物語を綴ったオムニバスですな。
短編5話とエピローグからなり、読みやすいです。
様々な時代というのは、江戸時代から現代までありましてね、環と周はある時は男と女ですし、ある時は女同士だったり男同士だったりします。
ところで、今は男の子っぽい名前とか女の子っぽい名前とかの決めつけは古いんだよね。
男女どちらでも使える中性的な名前と言うのも昔からありますが、名前は性別にとらわれずジェンダーレスな時代です。
ですから、環は女だったり男だったり周も女だったり男だったりします。
さて第1話は、母親が「中3の娘が同級生の女の子とキスしてる所を見てしまった!」ってな場面から始まります。
お母さん、そりゃ驚くわな。
見なかった振りでソッコー自宅に帰り、先に帰宅していた夫にあーだこーだ言いまして「これは思春期特有のアレだから、高校に行けばケロっと忘れてフツーに彼氏とか作るよね?!」と言ったら、それを聞いたダンナがなぜかムキになり「フツーって何?じゃ、娘がキスしてたのが男だったらフツーで、ああよかったって事?」なんて言ってくる。
妻が環で夫が周です。
夫が妻の心配とはズレた発言をしたのには理由がありまして
僕も中3の時に男の子を好きになったことがあるんだよ
ま僕の場合は告りもしなかったし何もなかったけどね
こりゃーてっきりLGBTがテーマだと思ったら、違いまして。
この夫婦は共働きでひとり娘を育てて来て、妻は料理夫は洗濯と家事の分担が実にちゃんとできています。
でも思春期になった娘は父親が洗濯担当なのに難色を示しだし、もちろん娘の気持ちを慮り父親は娘のものには細心の注意を払ってきたのですが、「なんでウチはお父さんが洗濯するの?」「洗濯はお母さんがやって!」などと言い出したんで、ブチ切れたのは母親の方です。
なんかひと昔前ならば、「共稼ぎなのに夫が家事をやらない」とか、「俺だって手伝ってるのに妻の言い方が気に入らない」などと言うせめぎ合いだった気がするけど、この夫婦は2人できちんと話し合って家事も育児も分担して頑張って生活してきたんですよね。
まあそんな会話のある夫婦であっても、わかり合えないことはあるし、ちょっとしたすれ違いや、うまくいかないこともあるんです。
それは娘も同じで、精一杯努力してきたつもりでも、年頃になった娘が何を考えてるかなんて親にはもうわかりゃしないんです。
「昔はあんなに可愛かったのに」なんて、小さい頃の無邪気な笑顔を思いだし切なくなったりして、親って寂しいのお。
これは周と環の夫婦の愛の物語でしたね。
第3話は70年代に遡りまして、不治の病にかかった独身女性・環と同じアパートに住む少年・周の物語です。
環は家庭の不幸を一身に背負い結婚もせずに苦労して生きてきた薄幸の女性なんです。
しかも病気で余命わずかという痛ましさです。
なのにどこか生死に悟り切った淡々とした女性で、死んだ後のことを懇意の大家さんに託したり、昭和のホームドラマみたいな大家さんは環が不憫だと嘆きます。
まだ昭和の人情みたいのが生きてる時代だね。
周も何やら病気を抱えているらしく、幼稚園にも行かず、夜の仕事をしてる母親が日中は寝ているため、ほったらかされてアパートの周囲でひとり遊びしてるんです。
周のことが放っておけなかった環はおせっかいは承知の上で彼の世話を焼きます。
周の母親は子どもの面倒を満足に見られないのを内心悩んでいたのですが、この困窮した寂しい母子の力になることで、自分自身も幸福で満ち足りた日々を送れるんです。
助けているつもりが自分が助けられていたんだって気づくこともあるよね。
たとえ他人の子であっても懐けば可愛いし子どもには不思議なパワーがあるんですよ。
最後の時間に周と出会い世話を焼くことで充実した人生を送ることが出来た環の話でした。
第5話の江戸時代の環と周の話はめっちゃ男女の悲恋でしたね。
周の夫を斬ったのが、幼馴染の環だったため、周と息子は仇討の旅に出て浪人となった環を見つけます。
しかし長旅の疲れで息子は急死してしまい、取り乱す周に環は「俺の長屋にいれば寝首をかくチャンスが来る」と説得し共に暮らすことに。
(仇討というのはルールがありますし、武士の意地や面目を立てるために行うんですが、息子が死んで彼女だけが故郷へ戻ってもなんもいいことないですから。居場所もないですし)
周は美しいけどキツイ性格で、もはやプライドだけで自分を支えてるのですが、つんけんしながらも真は環を好いていますから次第にほぐれて来ます。
でも結局のところ、周はとても悲しい女性なんです。それは彼女の性格に起因するように思いました。
愛しているから結ばれたいと思うのは、これは恋であって愛ではないですな。
世の中には一方的に恋をしてもただの恋に過ぎず実は相手のことを本当に愛してないケースもありますよ。
しかるに環は自分よりも周の幸せを考え、彼女が幸せならば自分は出奔して浪々の身となってもかまわないんです。
「ずっとずっとそなたの幸せを願ってきた。そなたさえ幸せならそれでよかった」とかきくどく場面は、環の人間性もあると思いますが本物の愛じゃないでしょうか。
何度でも生まれてこい。きっと見つけ出すから。という環の慟哭で第5話が終了しまして、エピローグで再び第1話の現代の夫婦に戻るっていう、ちょっと凝った作りです。
これは輪廻転生?人生を何度もやり直す話にもなってるかな?
サラッと読めるんですけど、深読みすると考えさせられるかもしれません。
絶望したり傷ついても愛を糧にして生きる環と周の物語でした。
ついでながら、「きのう何食べた?」22巻の内容に触れておきますと。
シロさんの元カノの美味しいパン屋さんが移転することになり、これから朝食はどうするかご飯にしようか悩んだり、昔は嫉妬するケンジがウザかったけどなんか今はありがたい気がするなと思ったり(年のせい?)、ジルベールと小日向さんの結婚式でシロさんがいい感じのスピーチしたり、物価の高騰でついに食費が月4万円に上がりました。鯛めしもホットプレートで作る焼きシュウマイもプリンアラモードもロールキャベツもとてもうまそうでした。