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大人の漫画読み

漫画/「神聖ローマ帝国 三十年戦争」1巻 宮下英樹 感想 

「センゴク」シリーズの宮下英樹が、ヨーロッパの戦国を描く歴史漫画。

「歴史群像」連載中の作品が単行本化。

1618年、ドイツのキリスト教新旧両派の対立から始まった「三十年戦争」がテーマ。

(宮下英樹「神聖ローマ帝国三十年戦争」ワン・パブリッシング歴史群像コミックス)

「神聖ローマ帝国 三十年戦争」1巻読みました!

「歴史群像」はほとんど買いませんからコミックスになって良かったなあ~

最初にお断りしておきますと、今回のブログは学校で世界史を勉強してるような、面白くもなんともない出来になってます。

なぜなら西洋史の中でもマイナーな「三十年戦争」は、身も蓋もない言い方をすればまるで面白みを感じません。寅さん曰く「それを言ったらおしまいよ」。

三十年戦争は1618年から1648年にかけて、ドイツを中心に起こった宗教戦争です。

キリスト教の新と旧の争いとか、日本人にはよくわからん且つどうでもいいし興味も薄いんですよね。(投げやり)

 

さて、舞台は17世紀の神聖ローマ帝国でして。

神聖ローマ帝国は、962年のオットー1世の即位から始まるドイツ王を中心とした複合国家でございます。(ちなみにどのへんが神聖だったのだらう?)

この帝国の特色は、ドイツ王(ローマ皇帝に戴冠されるのでローマ王とも呼ばれる)が皇帝位に就くことと、選帝侯と呼ばれる7人がドイツ王を選出する選挙権を有している事です。

当然選帝侯は力を持ち、選挙権以外にも他の帝国諸侯とは一線を画した数々の特権を持っています。

物語は三十年戦争の発端となったボヘミア・ファルツ戦争(1618年から1622年)から始まります。

カトリックとプロテスタントの宗教対立は高まり、もはや暴発寸前のある日の事。

ボヘミア(今のチェコの一部)のプラハにて、カトリックの王に弾圧されていたプロテスタントの不満が渦巻き、プラハ市庁舎を襲撃しカトリック派の議員を窓から投げ落とすという「プラハ窓外放出事件(そうがいほうしゅつじけん)」が勃発!窓から投げ落とすってアータ!!

この事件でボヘミアは一気にプロテスタントの反乱が起こり、ボヘミア王も鎮圧のため軍を動かしますし、両派の対立は軍事衝突に向かい緊張がはらみます。

 

ここで余談ですが、三十年戦争を描いた漫画がありましたよ。

アフタヌーン(講談社)で連載中の「イサック」(真刈信二・作、DOUBLE-S・画)です。

「イサック」の舞台がちょうど17世紀の神聖ローマ帝国で、ボヘミア・ファルツ(イサックではプファルツ)戦争が描かれています。

落城寸前のファルツ選帝侯領のフックスブルグ城に傭兵として現れたひとりの日本人。

それがイサックでしてね、携えた火縄銃のたった一発でスペインの大群を撃破するっていう凄腕の銃士なんです。

ただこの作品は実在した人物といかにも歴史上の人物っぽい架空の人物が混在しています。

前記のフックスブルグ城も架空ですし、地名や人物はかなり空想で膨らましてると思われるんですが、三十年戦争をよく知らんために判断に迷います。

あたしの推しはプリンツ・ハインリッヒ(架空)という刀剣男士みたいな美男子ですが、彼はファルツ選帝侯フリードリヒ五世の妾腹の弟という設定です。

このフリードリヒ五世(またの名を冬の王)が本作の第一章の主人公なんです。

 

ボヘミアの反乱を見て動き出したのが、ドイツ南東部ファルツ選帝侯領のフリードリヒ五世(この時21歳)であります。

プロテスタント派の有力諸侯のひとりであり、帝国最大級の貴族、文武両道、容姿端麗、嫁は大国イングランドの王女というスパダリでございます。

彼は二百年も燻り続けるカトリックとプロテスタントの対立をなくしたいと考えていました。

しかしそれはフリードリヒが神聖ローマ皇帝にでもならない限り無理な話。

なんたって神聖ローマ帝国の皇帝位を実質世襲しているのは泣く子も黙るハプスブルグ家です。

ファルツ選帝侯がボヘミアの反乱政府に与するということは、(ボヘミアの国王フェルディナントは次期皇帝候補)将来の皇帝及びハプスブルグ家を敵に回すことになるんだっぺ。

ハプスブルグ家と争うなんざ国を崩壊させる行為だと危ぶんじゃうのは当然よ。

フリードリヒは理想を求める高潔な人物に描かれてますね。

ただ若いねん・・・

事はもっと複雑でして、宗教対立の影にはスペイン・オーストリア両ハプスブルグ家によるドイツ支配を嫌ったプロテスタント諸侯の下克上があるんです。

ここからフランス、オランダ、デンマーク、スウェーデンまでも巻き込んだ国際戦争に発展したのですが、それはまだ先の話。

フリードリヒは君主としてどうあるべきか悩みながら、ボヘミア王に推されてビックリ!

ゆくゆくは神聖ローマ皇帝となりハプスブルグ家を転覆する計画に乗ったのは、若気の至りと言うよりも、カトリックとプロテスタントの解決を目指すという悲願のため、ってのが本作のフリードリヒ五世の造形です。

また敵方のボヘミア王・フェルディナントがおもろいオッサン(実は腹黒)だったり、一癖も二癖もありそうな傭兵隊長・マンスフェルトとか、個性的過ぎる人物が次々と登場し、策略や駆け引きを繰り広げ時代の空気感は戦いへ醸し出されます。

まるでピーター・ディンクレイジな宮廷道化師・セルサスが前半部の解説役です。

1巻を読んだ限りではお得意の群像劇で面白いですし、ヨーロッパの上流階級の雰囲気も良いですし、次巻も楽しみなので買いますが、三十年戦争が超マイナーなので読者がついてくか心配(余計なお世話?)。