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映画/「男はつらいよ 寅次郎相合傘」懐かし映画感想

日本中を旅して巡る寅さんは、東北のとある田舎町にて蒸発してきた中年男と出会った。

心配した寅さんはさくらに男の家族に連絡するよう命じつつ、男と共に旅を続ける。

ある日、函館で偶然リリーと再会。

ドサ周りの歌手に戻ったリリーを加え3人は楽しい旅を重ねた。

(山田洋二監督/1975年/91分)

 

面白いと思ったらシリーズ最高傑作と言われてました

寅さんの面白さを最近になって知った俺。

Netflixで全シリーズ観れるんで観始めたのですが、全部で49作もあるのです。

すごいんだね~

現在17作まで観ましたので、そこはかとなく感想をしたためておく次第です。

寅さんと言えば喜劇映画ですが、最も興味深いのは故郷の葛飾柴又をはじめ公開当時の日本の風景が見られる事でして。今と全然違うよ。

第1作が1969年の公開ですから、昭和40年代つったらアレでしょ?高度経済成長期だよね。

まだ蒸気機関車が走ってるんですよ。

寅さんが例のトランクを下げ、風に吹かれてぶらりと歩く風景も鄙びていて、昔の日本てこんなのどかだったのね~とチョットたまげる。

日本の原風景と言えばいいのか、自分生まれてないですが、十分ノスタルジアのような物を感じます。

寅さんが旅先で言葉を交わす人々も素朴で美しいです。

当時と変わったのは風景だけじゃありません。

家族に対する考え方も今とは随分違いますし、結婚にしても、結婚は誰でもする事で結婚できないと人は不幸だという風潮です。

だからやっぱ「とらや」の人たちは寅さんに結婚して欲しいと願ってるんですが、どう見ても一か所に定住できない漂泊者の寅さんは結婚には不向きです。

しかし女性には惚れっぽく寅さんだけが一方的に恋い慕う片恋で、畢竟失恋するのが定番だと思ってたら、毎度毎度そうとは限ってないんですね。

うまくいきそうじゃんと思ったら寅さんの方が引いてしまったり、なんだか曖昧に終わってしまう場合もあり、かなり面白い佳作もありますが、もう観るのやめようかと思うほどヒドイのもあるんですよ。

ここまで17作品を鑑賞して最も面白かった「寅次郎相合傘」の感想にしばしお付き合いのほどを。

あと、なんですかね?定番化されてる映画冒頭の茶番劇。ちっとも面白くない上にけっこう長い尺だし。今回も海賊船の船長になった寅さんが妹のチェリーを救うとか全然笑えなかったけどな。

さて、リリー(浅岡ルリ子)がひょっこり「とらや」にやって来まして、リリーは前にも登場したドサ周りの歌い手で寿司屋のおかみに納まったのですが、離婚してまた歌手に戻ったと言うんです。

寅さんは何処の旅の空か不在でしてね、リリーはとても残念がりますが、北の方へ行ったら会えるかもしれないわねと言い立ち去ります。

その頃寅さんは、兵頭(船越英二)というおかしな中年男と青森にいました。

兵頭は人品骨柄卑しからぬ紳士ですが、会社も家族も嫌気がさして家出してきたと言ってまして、寅さんみたいな自由な生き方に憧れてて帰れと言っても聞きません。

寅さんは親切にもさくらに電話をし、東京の兵頭の家族に心配しないよう連絡してくれと頼みます。

案の定、兵頭の家では主人が蒸発したと大騒ぎになってるんですが、家も家族もハイソな雰囲気でしてね、寅さんは「パパ」なんてノンキなあだ名で呼んでおりますが、兵頭は会社でも重役クラスの偉い人なのですがな。

たぶん青函連絡船だと思いますが、2人は北海道へ渡り、深夜のラーメン屋で偶然にもリリーと再会します。

ここからリリーが加わった3人の旅路が、ロードムービーっぽくて素晴らしく好きです。

初夏の北海道で気ままな道中を楽しむいい大人たちがなんだか微笑ましいです。

特に船越英二さんの天然ぶりは、今夜の宿賃に事欠いても「お金がなければ野宿すればいいんですよ」などという「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」式の鷹揚さで実に笑えます。

小さな駅舎で野宿する時もパジャマに着かえたり、どこかほのぼのとしながら束の間の自由を楽しむ姿に寅さんも呆れます。

浅岡ルリ子さんが演じるリリーはキャバレーからキャバレーへと旅回りの歌手で、女版寅さんと言った風情ですが、不幸な身の上で家庭の縁が薄く孤独な女性です。

彼女の寂しさも寄る辺のなさも少女のように無邪気な面も、それでいて強気で人を寄せ付けない所も魅力的なんです。

兵頭は実は小樽にいる初恋の女性に一目会いたくてやって来たのですが、そんな兵頭をリリーは甘ったれた男の感傷だと一蹴します。(男ってそういう所あるよね)

今更初恋の男がノコノコ現れたって、だから何だってんだ。つって。

彼女は今は夫を亡くしひとりで喫茶店を切り盛りしていて、オドオドしながらその店に入る兵頭。

この場面の船越英二さんが少年のようにナイーブな演技で切ないですが、ホントお前何しに来たのよって感じ。

自分は彼女を幸せにする事もできなかったダメな男だと勝手に落ち込む兵頭に、リリーは黙ってられなくなり言い放ちます。

「女が幸せになるためには男の力を借りなきゃいけないとでも思ってんのかい?笑わせないでよ」と。

リリーは自立した女性なんです。

でも寅さんは昭和の男だから「お前は可愛げのない女だ」とか「だから寿司屋に捨てられたんだろう」などと言ってリリーを幻滅させます。

リリーは怒り喧嘩別れしてしまう。

いつも寅さんの暴言や人を馬鹿にしたような言い方がとても気になるんだけど、みんな聞き流して特に咎める風もないので、時代と言うか昭和の価値観の違いなんでしょう。

まあその後で、寅さんの優しい側面が描かれてちょっとほろっとさせる展開になってるんですが。

仕事に行ったリリーが夜の柴又駅に帰り着くと雨でしてね、寅さんが照れくさそうに背を向けて傘を持って待ってるんです。

「迎えに来てくれたの?」

「馬鹿野郎、散歩だよ」

もう自分がリリーになった気で胸が一杯になりました。

2人が心を通わせてる事は皆わかり、殊に寅さんにビシッと言えるリリーが「お兄ちゃんと一緒になってくれたら」などとさくらもその気になってしまいリリーに言ってみると、リリーも真面目な顔で「いいわよ」と答えます。

さくらは大喜びですが、それを聞いた寅さんが本気にしないため、リリーも冗談だと言って「とらや」を出て行ってしまうのです。

寅さんはやっぱ昭和の男だから女の幸せは結婚で決まると思ってるから、自分ではリリーは幸せにできないと思ってるのかしらね。

微妙な男女の心の綾ですな。