亡命時代を共に過ごした、ヴラドの盟友・シュテファン三世。
小国・モルダヴィアを率いる若き王がヴラドを救い出すために、大国ハンガリーと対峙する。
第7巻読みました!
今回はシュテファンが大活躍大成長の感動編です!
ワラキア公国は現在のルーマニア南部、トランシルヴァニア山脈とドナウ川に挟まれた盆地です。
モルタヴィア公国は、ワラキアの北方に位置する同じルーマニア人が作った国。
この二つは、ハンガリー、オスマン帝国といった列強からの干渉を受け度々君主が入れ替わってきた弱小国です。
7年前(1448年)ヴラドは父兄が暗殺されたため一度ワラキア公となりましたがすぐに失脚、叔父であるモルダヴィア公を頼り擁護されていました。
その時モルダヴィア公の息子シュテファンはまだ可愛いらしい少年でしてね、つまり2人はいとこなんですが、モルダヴィア公は2人に「大国から領土を守るために大切なのは小国同士の結束なんだ」と言ってましたよ。
ワラキアとモルダヴィアの関係は極めて深く親密だったんですね。
そのモルダヴィア公が暗殺され、ヴラドはシュテファンを連れ逃亡、2人はトランシルヴァニアのフニャディ・ヤーノシュの庇護下で亡命生活を送りました。
シュテファンはヴラドを見て成長したようなものですが、2人は兄弟のようであり盟友でもあるわけですが、まだまだ子どもだと思ってましたら、今巻では一気に急成長。
男って急にかっこよくなる。
ヴラドは兄であり友だ!
オスマン帝国を撃破したのに、実弟・ラドゥに公座を奪われたヴラド。(苦労人です)
ワラキアを脱出したヴラドは、マーチャーシュ一世というチャーシューみたいな名前のハンガリー王の元へ身を寄せました。
ところがチャーシューの奸計により幽閉されてしまったわけですよ。
終身禁固刑の判決を受け(いやはやなんとも)幽閉が2年に及んだ頃、やっとこ忠臣・ストイカがヴラドに接触。(ヴラドの亡き妻・イロナの従姉妹であるジャスティナの協力があったのですが)
ヴラドの命を受けたストイカはモルダヴィアへ向かいシュテファンに会いました。
で、この返事!(・∀・)イイネ!!
ヴラドが自分を頼ってくれたのが嬉しいシュテファン。
シュテファンはラドゥに代わる新たなワラキア公候補としてバサラブ・ライオタを擁立せんと画策します。
この人は3巻でワラキア公座を狙い自分で自分の墓穴を掘らされたダン・ダネスティの異母兄ですがな。
しかし、オスマンやハンガリーが後ろ盾っつーのならともかく、モルダヴィアのような小国がバックについたってラドゥに勝てるわけないじゃんと相手にされなかったのです。うむー
するとヴラドから謎のメッセージが・・・
この交渉が決裂したのを知ったヴラドからシュテファンに文が届きますが「約束を破れ。一つの首に二つの頭は戴けない」という意味不明な言葉でして。
ちなみにこの文字は牢獄のヴラドが自分の血で書いたのです。不憫。
さて「約束」という文言に、シュテファンはモルダヴィア公になった時、ヴラドと交わした「ワラキアとモルダヴィアの不可侵条約」を思い出します。
つまり、モルダヴィアが約束を破ってワラキアに侵攻する➡ヴラドを排除するためにハンガリーに借りを作ったラドゥは、言うなればオスマンとハンガリー両方の顔色を窺うコウモリ外交ですから、どちらにも援軍を乞えません。
一つの首に二つの頭は戴けないとはその事で、ワラキアに侵攻したシュテファンはヴラドが描いた絵図通りに勝利しました。
策士策に溺れるってやつですな。ラドゥざまあ
ワラキア侵攻を成功させたモルダヴィアに対し、ライオタは若造だけどやるじゃんとシュテファンを見直しまして。
「どうかワラキア公に」とシュテファンが跪いたのです
これにはライオタだけでなく周囲もビックリ。
ストイカはシュテファンの中にヴラドを見た、というね。
読者は1巻でワラキア貴族の老害・アルブの前に跪いたヴラドの姿を思い出すでしょうかね?
あの時側で見ていたシュテファンはショックを受け悔しいと怒っていましたが、ヴラドは「あなたにもやがてわかる」と言っただけでした。
そうして、ヴラドの信念を受け継いだシュテファン。
信念のためには跪きもします。
その信念が尊いものであれば、決して正義から外れない、ってな所でしょうかね?
そんなこんなで、獄中から意のままに操る感のヴラドですが、あんな事やこんな事が出来たのも、すべてはジャスティナ嬢の協力あっての事。
なんとも優しく微笑むジャスティナ
この作品は女性キャラは多くないのですが、イロナもジャスティナも非常に魅力的ですね。
しかもヴラドの役に立つ。
ジャスティナはイロナを慕っていて、ヴラドとの結婚はうまく行かずヴラドに殺されたのだと誤解していました。
そういう誤解をされちゃう男なんだな。カワイソー
が、実は陰謀から身を挺してヴラドを守るため死んだと知って、彼女はヴラドに協力してくれるようになり、やがて彼に惹かれていきましたね。
ヴラドは無口無表情で、何を考えているのか胸の内を量るのは難しいですが、獄中にあっても礼儀正しく素敵なんですよ。(ロン毛もいいし)哀愁が漂って、女性は献身的な気持ちになるんでしょうか。
そんな彼女が「何故そこまでして公座をお求めになるのですか?」と問いかけます。
思えば、オスマン軍ていう異教徒からキリスト教世界を守った英雄として、ブラド三世は西ヨーロッパまで知られた人物ですのに、マーチャーシュ一世のプロパガンダで貶められ、今や誰もが暴君と呼んでいます。
命を懸けて守った者に裏切られてなお彼らを守ろうとするのはなぜなのかと、ジャスティナは問うたのです。
ワラキア公である事は私にとって生きる事そのもの
「私に流れる血が国を護れと叫び続ける
この声が聞こえなくなる時私も死ぬでしょう」
これはまさにまさに、この作品のキモですね。
小国の悲しさとは言え、国が荒れれば被害を被るのは庶民です。
そんな事考えもせず自分たちの醜悪な野心や権勢欲のために、暗殺や裏切りが横行してるじゃないですか。
忠誠心なんてないし、強い方に着くし、すぐ暗殺されちゃうし、国の事を案じている者などおりませぬ。
こんな世界で熾烈に戦い生きて来たブラドのなんと高潔な事か。
こういうキャラの掘り下げが人間としての説得力に繋がり作品の魅力となってるんですよね。
しかしラドゥも黙ってないよ。
トランシルヴァニアではマーチャーシュの税制改革に対し反乱が起こっており、ラドゥは乱の首謀者はシュテファン三世だとマーチャーシュに耳打ちし、ハンガリーとモルダヴィアの対立を煽ったのです。(こういう姑息な手が巧妙なのよ)
今巻ではブラドは獄中ですので、シュテファンの大活躍が見所でカッコよく成長しましたね。
ヴラドがワラキア公に返り咲ける日は来るのか?
ヴラドの戦いはいつ終わるんだ!
間違いなく次巻も買いますぞ。