「ハコヅメ」の作者が「日本警察の父」川路利良を描く幕末史コメディ。
講談社「モーニング」にて2023年6月より連載中。
第1巻読みました!
「日本警察の父」厳格なイメージの川路利良がコメディ漫画になるかな?
確か、司馬遼太郎の「翔ぶが如く」は川路利良のパリ留学から始まるんですよね。
有名な(有名かどうか知らんけど)うんこ投擲事件も笑うと言うよりか、呆れる感じでした。
西郷隆盛の引き立てで渡仏して警察制度を視察し、警察こそが文明をけん引するんだという信念で、西南戦争では徹底して西郷軍と対立した川路。
1ミリも笑えそうにない川路をコメディ漫画化とは、こりゃまた面白い所をついて来たもんですなー
またこの作者は元警察官ですから、川路利良とは浅からぬ縁がありますよね。
さて、薩摩藩の家臣は上士、郷士などに分れ、川路正之進は身分の低い準士分です。
ギリ武士って、笑ちゃったけど、川路の髪型も丁髷ではなく妙に現代的でノリも軽いんです。
まさかこんな風に描かれてるなんて、川路利良も草場の陰で驚いてることでしょう。
薩摩藩の名君・島津斉彬も軽妙でタメ口なおじさん。
斉彬から「西郷を水戸にお使いに出すから護衛でついて行ってちょ」と命じられたり、水戸藩の前藩主・德川斉昭を激烈イケイケおじさんだとか、フランス革命を将軍と御台所が首チョンパされた乱だとか、うーむ何だコレ―!?
一旦、本を閉じて、実はそのまま失念しておりました。
で、この度思い出しまして、今度は最後まで読んでみたのですが、何だおもろいやんけー!
ごめんなさい。面白かったです。
斉彬の川路の評価は「あらゆることに察しがいい男」でして、器用で何をやらせても上手だし洞察力が鋭く頭も柔軟です。
この時代、黒船がやって来て日本中は大混乱に陥りましたが、肝心の幕府は当てにならず、斉彬は「ナポレオンみたいな英雄がいたら」なんて考えましてね。
「そうだ!西郷おまえナポレオンになれよ」などと無茶振り。
ってなわけで、なんだかわからぬまま西郷吉之助とコンビを組まされた川路。
でも身分の低い西郷や自分が水戸藩邸に行って斉昭に会えるものかとビビる川路に、「西郷に薩摩の最終兵器渡しといたから大丈夫」と言う斉彬。
斉彬は下級武士だった西郷を抜擢し強い影響を与えた人ですが、開明的で飄々とした明るい人柄に描かれています。
斉昭とか斉彬とか紛らわしいよね。
歴史にあまり興味のない人が読んでもギャグが効いてて笑っちゃうからヘーキです。
超天然で空気が読めず、いきなり怒り出したりする西郷の行動に、胃がキリキリ痛む川路でしたが、実は西郷は純粋で真っ直ぐな人間だと気づきます。
水戸斉昭にも気に入られちゃうし、その後もエライ人の元へ使いに行く度に西郷は評判になっちゃう。
これまで藩の役人としては浮いていた西郷。
薩摩の小役人としては通用しなかったけど、今や諸侯の間では「純度の高い薩摩の使者」として認知され始めます。
斉彬曰く、皆「賢候」と呼ばれる人たちだから、西郷の良さがわかる人にはわかる。
「西郷を好きになってもらえて嬉しいよ」と語る斉彬にしみじみと温かさを感じる川路でした。
そんなわけで川路は、大好きな斉彬のために情報工作と印象操作で「英雄の虚像」を作り上げようと、西郷をナポレオンのような英雄としてプロデュースしようと秘かに考えるのです。
その頃、第13代将軍家定の後継者問題が持ち上がっておりまして、次期将軍に一橋慶喜を推す派とまだ10歳の徳川慶福を推す南紀派(大老・井伊直弼を筆頭とする)で真っ二つに割れていました。
斉彬は一ツ橋派。
一ツ橋派は、斉彬の養女・篤姫を将軍に嫁がせ発言力を高め、「上様お願い」って慶喜を次期将軍に指名するよう仕向ける壮大な「お色気作戦」を決行。
そこでイケイケの女が集まる伏魔殿「大奥」で篤姫が恥ずかしくないよう、薩摩77万石の姫君として舐められないような嫁入り道具を揃えよと命じられる西郷と川路。
公家や大名家の嫁入り道具「貝合」の豪華絢爛な物をと望む斉彬に対して、川路ら下賤の者どもが知ってる方の「貝合わせ」(女性同士の性交を指す隠語)と勘違いし、江戸の大人の性具の専門店に大真面目に出向く2人が可笑しい。
そんなこんなで嫁がせた篤姫うっふん大作戦も不発に終わってしまうのですが、井伊直弼との対決は続きまして、井伊の忍び軍団「多賀者」が登場したり、多賀者の1人を薩摩藩の密偵に取り込んだりと影でいい仕事をする川路です。
それから斉彬のお国入りについて薩摩藩に戻る川路と西郷。
けれど川路は「江戸わずらい」で、大名行列中にフラフラしてしまいます。
「江戸わずらい」とは今で言う脚気のことです。
当時は副食物が貧しいからね。
ろくなおかずもなく白米だけを大量摂取するからビタミン不足で体調を崩し、江戸勤務が終わって故郷に帰り、雑穀やイモの食生活に戻ると体調が回復。
それで「江戸わずらい」です。
体がビタミンB1を求める2人は無性に焼きイモが食べたくて仕方なく(薩摩と言ったらイモですね)西郷の屋敷で焼きイモを食べようとしまして。
それなのに苦労して帰って来た兄様にイモなんか食わせられるかと、出て来たのが借金してまで手に入れた白米のおむすびでして。(西郷家は貧しい)
どうしても白米を食べさせてやりたい兄思いの妹と、どうしても白米を食べたくない2人のせめぎ合いが絶妙に可笑しかったです。
またぞろ西郷帰国の噂を聞き集まって来た人たちの手土産もなんか可笑しい。
名前のインパクト凄すぎ!
日本の歴史史上最強の戦闘民族薩摩武士ですから、文化もちょっと独自のものがあります。
今薩摩で大流行してるのが「賎(しず)のおだまき」という戦国の薩摩を舞台にした、美少年三五郎&よか二才(にせ)【よか二才・イケメンのこと】清家による恋と戦いの物語だとか。(BL?)
薩摩の軍は戦国より先輩・後輩の2人一組で戦う風習がありまして。
薩摩の郷中教育では、6才から14才の少年が稚児。
15才から25才の青年が二才。
二才と稚児が組んで剣術や勉強を教え、男同士の絆を育てる。
だからめっちゃ強い。
さらに薩摩の度胸試し「肝練り」
ロシアンルーレットみたいなヤツ!?
もう、ビックリしちゃうね!
薩摩の話は面白くてもっと読みたいですね。
相手が欲するものが何なのか察する。
そして、相手よりも早く行動または準備する。
元来察する能力に長けてるんでしょうが、言われてから動くのではなく自分ができる事を考えて自ら行動に移すっていう、封建時代にはいないタイプの出来る部下ですね。
川路利良のイメージが変わりました。
幕末と言えば新選組や坂本龍馬ばかりじゃ食傷気味ですから、何か新しい視点から見た幕末漫画になって欲しいですね。