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大人の漫画読み

漫画/「未来の想い出」藤子・F・不二雄 感想

「藤子・F・不二雄生誕90周年記念出版」と銘打って、1991年に「ビックコミック」で連載されたSFファンタジーが新装版で発売されました。

(藤子・F・不二雄「未来の想い出」小学館ビックコミックスペシャル)

運命は決まっているのか?変えることができるのか!?

アットホームな雰囲気のギャグ漫画で、殺伐とした要素は皆無で、家族で安心して見られるのが藤子不二雄作品。

その代表作は何と言っても「ドラえもん」(79年)ですが、一大ブームの1989年、藤子不二雄はコンビを解消し、「藤子・F・不二雄」と「藤子不二雄Ⓐ」として別々に活動することになりました。

その前年に「F」が体調不良となったのが一因ですが、ここでは関係ないので触れませんが。

「未来の想い出」は「藤子・F・不二雄」の最後の連載漫画であり、主人公は「F」がいつも描く自画像そのままの風貌ですし、漫画家仲間と一緒に住んでいた西日荘と言うアパートも噂に聞くトキワ荘っぽいですし、なんかとっても切なく感じました。あたしは。

 

さて、あらすじ。

かつて(20年前)「ざしきボーイ」なる大ヒット作で売れっ子になった漫画家・納戸理人は、連載漫画「時空戦記」を打ち切られ今や落日。

妻との結婚生活も幸せとは言えず、妻に散々嫌味を言われイライラしながらゴルフコンペに行ったところ、ホールインワンを出した興奮で心臓麻痺を起こし死亡。

三途の川らしき場所を引き返した次の瞬間目覚めると、そこは20年前に納戸が住んでいたアパートでして自身も20才に戻っていたのですわ。

ただし過去に戻ったという自覚はなく、どこか違和感を感じながらも同じ20年をもう一度送る納戸でしたが、交通事故に遭ったショックで、自分が何度も(納戸だけに)同じ20年(20才~40才くらい)をループしていると気づいたのです。何たる運命のいたずらっ!

俺はおもちゃかっ!!と憤る納戸でしたが、ゴルフ場で心臓麻痺を起こすまでの残り時間5か月間(こちとら自分の半生がわかってるんだぜ。未来の完全な想い出を持ってるんだもの)を次回の人生への準備期間とし、記憶を持ち越して人生をやり直そうと決意します。

 

とまあこんな感じですがね、やっぱどう見ても御自分がモデルですよね。

先様が自身の人生に悔いがあったかどうかは知りませぬが、納戸氏は人生に後悔しているからこそやり直したいと考えたわけです。

夢が叶ってせっかく売れっ子漫画家になれたのに、あまりに忙し過ぎて漫画を描く喜びを失くし、いつしか惰性でペンを動かすようになってしまった自分。

原稿を上げるためだけに、漫画を要領よく描くコツを覚え作品はワンパターン。

守りに入っちゃった漫画家の作品てのはつまらないもんです。

気づいた時には落ち目でして、アシスタントがデビューしてヒット作を出し追い抜かれるというね。トホホ

そんな納戸ですが、彼にも若く純粋な時代があって、20才の頃から「ざしきボーイ」でヒットを飛ばす頃までの青春の日々がとても素晴らしく胸を打つんですよ。

「日本一の漫画家になるぞ」「石にかじりついてもなってみせる」って自分に誓った若い日。

原稿を持ち込んでも不採用の日々。

貧しくても一緒に夢を語り合える漫画家仲間との熱い交流。

きっとトキワ荘ってこんな感じだったのでしょう。

そんな中で彼は水谷晶子という女性と出会います。

女優志望の晶子は劇団に所属しヌードモデルをして生計を立てていました。

始めての連載が決まった日、嬉しくて晶子に知らせると我が事のように喜んでくれましてね、晶子も次の公演では役がもらえそうだと話し、2人は互いの夢を語りながら夜の街をどこまでも歩きました。

この女性との恋愛がまた悲恋でして。

晶子は実家の父が倒産しそうで悩んでいました。

仕事が軌道に乗ったばかりで何もしてやれない納戸は、漫画が売れ始めると次から次へと締め切りに追いまくられ、昼も夜もない毎日で疲弊してしまいます。

彼女が気になりアパートを訪ねると、もう引っ越した後で消息不明になってしまい、彼女は自分を捨てたんだと思わざるを得ません。

「ざしきボーイ」はアニメ化もされ大ヒットし、納戸は西日荘を出て新築マンションに移り仕事は絶好調。

しかし頂上を極めれば後は下り坂だと不安がよぎる中、西日荘で世話になったおばさんが訪ねて来て、西日荘の建て替えで晶子の手紙が見つかったと持ってきてくれたのです。

そこには「工場が倒産し父は自殺、母がショックで寝込んでしまい、帰郷するしかないが、いずれ落ち着いたらお便りします」とありました。

仕事もそっちのけで、泡食って北海道の生家まで飛びますが、家は焼野原となっており、母親が放火自殺を図り晶子は助けようと火の中に飛び込み死亡したと知るのです。

失意の納戸は漫画家仲間の好きでもない女と結婚いたしました。

その妻とはうまくいかなかったわけですが、人生を変えてやろうと決意した納戸が「ぼくはいい夫じゃなかった」「新しい人生では、ぜひ幸せになってください・・・・」と妻に告げる場面は妙に切なかったです。

いいオッサンが初恋の女が忘れられないって、男ってしょうもないわねー┐(´д`)┌ヤレヤレ

まあよくあるループものなのですが、藤子・F・不二雄の半自伝作品のように見えてなんだか切ないのです。

そして人生について考えさせられる所が好きです。

「人生のやり直し、ファウスト以来の手あかのついた題材じゃないか。古い」などと指摘されそうなことを自ら描いとくのもご愛敬。

ちなみに俺の好きな「F」のエピソードは、ジャイ子に本名がないのは「本名を決めると同じ名前の子がいじめられるんじゃないか」と心配したから。

優しい人なのだ。

藤子不二雄Ⓐも亡くなり、一時代を作った仲良し同級生コンビ再会できただろうか。

子どもでも大人でも楽しめる作品良きかな。