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漫画/「とつくにとうか 幕末通訳 森山栄之助」川合円 感想

月刊「goodアフタヌーン」で連載中の「とつくにとうか幕末通訳森山栄之助」は、江戸時代に活躍した通詞(つうじ)森山栄之助の物語。

通詞とは、鎖国時代の日本の通訳者でございます。

(川合円「とつくにとうか幕末通訳森山栄之助」講談社アフタヌーンKC)

江戸時代の通訳「通詞」とは?

長崎に生まれた森山の家は代々オランダ通詞を務めていました。

鎖国時代の日本人にとって外国語と言えばオランダ語オンリーでしたが、幕末になってオランダ語では通じない異人がいる事にようやく気付き、英語が必要不可欠になって来たわけです。

黒船より以前から、日本の沿岸には多くの異国船の出没が激増してましてね。

森山栄之助が登場する吉村昭の「海の祭礼」を読むと、これらの船は捕鯨船でして、当時の欧米で行われていた捕鯨の最大の目的は、食用としてではなく鯨肉から採れる鯨油の採取だったそうです。

日本周辺の海は極めて資源豊富な漁場であり、日本人が知らないだけで各国から多数の捕鯨船が集まっていたんです。

捕獲したクジラは船上で煮て採油したため、薪水の補給が必要でありました。

こんな事情が日米和親条約締結へのアメリカ側の動機となりました。(日本と貿易したかったんじゃなかった)

また、黒船騒動で幕府はオロオロしてたと思ってましたが、実は幕府は事前に情報を得ていたのです。(そこまでアホじゃなかった)

条約締結にあたった通詞が森山栄之助なのです。

もっともそこに至るまでに、英語の読み書きはオッケーだけど発音が変で通じなかったという通詞としての屈辱を味わい(トラウマ体験)、何が何でもネイティブな英会話を習得したい森山は、日本に憧れて捕鯨船から小船で密入国しようとした不思議なアメリカ人、ラナルド・マクドナルドから英語を習ったんですがな。

 

さて、森山栄之助が実在人物ということがおわかりいただけた所で本題に入りますが。

この漫画は俺的に良い点と残念な点があるのですが、まず良い点は通詞についてよく知れて非常に興味深いです。

本作の森山はまだ15歳でオランダ商人を相手に「通詞見習い」をしています。

通詞は普段は長崎でオランダ商人との交易に従事していまして、4年に一度オランダ商人の「江戸参府」にも同行します。

その道中ではカピタン(出島のオランダ商館長)や書記官たちの面倒を見たり(お世話係やん)帳簿つけ、献上物の品数を確認、目録を提出したり、その他書類作成とか仕事が沢山でしてね、通訳だけじゃないのです。

江戸に滞在する間は見物人や来客が押しかけ、特に医者が地方から患者を連れてオランダ医に助言を求めに来たりもするんで、医療など専門分野の通訳もするんです。タイヘンネー

しかし外国人を毛嫌いする日本人も当然いましたから(異人は血を飲むとか人肉を食うとかマジで思ってる奴)オランダ商館には「江戸参府」用の旅の手引書もありまして、「避けられても驚くなかれ」「借りた手拭いを捨てられても驚くなかれ」「使用した蒲団を捨てられても驚くなかれ」「多くの日本人にとって我々はいまだ外つ国のケガレである」などと書いてあって、昔の日本人ひでーなー( ノД`)シクシク…

外国人も繊細な神経の人だったらたまりませんよね。

日本人側の目線ばかりでなく、外国人の心情も描かれていて良いですが、間に入る通詞は神経がすり減ります。

通詞ってこんな事もしたんだなーと面白いです。

見習いとは言えまだ子どもなのに、昔の人は偉いですなあ。

まだまだ駆け出しですが、森山は真面目で仕事熱心な性格と常に疑問を持ち自分の頭で考えてるのがいいですね。時には空回りもしますが。こういうタイプは封建時代には稀です。

「俺の仕事はこの国の言葉や文化を海の向こうまで運ぶことだ」なんて台詞に、通詞という仕事に対する真摯な思いに溢れています。

彼はただ訳すのではなく、その人の背景や文化も理解し正しく伝えたいと思っているようです。

森山のバディとして同じく通詞の掘達之助が登場しますが(堀もペリー来航時の通詞)クールなイケメン風でして、クソ真面目でおっちょこちょいな森山のツッコミ役となりながら、実は森山が好きで尊敬してる(絶対言わないけど)でも通詞として森山の真似をするのではなく、また別の思いを持って仕事に携わっています。

幕末という激動の時代と、通詞として成長していくお仕事漫画の要素と、青春ドラマという非常にいい構成だと思うんです。(・∀・)イイネ!!

ペリーやハリスといった超大物との会談には必ず通詞がいたわけですが、まあ小物でも通詞はいましたが、これまで通詞がフォーカスされる事はなかったと思うので、異なった視点の幕末漫画になるんじゃないかと期待しましたが。

それなりな感じでは読めますし、特に不満を感じない人もいると思いますが、あたしはどうもイマイチ乗れませんでした。

ハッキリ言って残念な点は、どうにもクオリティが幼稚っぽい感じ。

いや最初に吉村昭なんか書いちゃったのが悪いかもしれんが。

森山がのび太みたいなメガネキャラであまり魅力を感じません。

 

 

吉村昭 「海の祭礼」

森山さん本当にお疲れ様という気持ちになる逸品