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大人の漫画読み

漫画/「エロスの種子」8巻 もんでんあきこ 感想

「エロスの種子」は2017年から連載中。コミックスは8巻まで刊行

一話完結の連作集で人間の性愛と激情を描いた大人が読む漫画作品。

(もんでんあきこ「エロスの種子」8巻 
集英社ヤングジャンプコミックスより)

極北の地である稚内の防波堤の行き止まりでその青年は夜明けを待っている様子でしたが、カメラを携えた通りすがりの男から「朝日を撮るのに邪魔だからどいてくれ」と言われるや、先様は何を考えていたのか突如として夜明け前の海に飛び込んだのであります。

いいんだ、どうせ死ぬつもりだったから

いや、アカンがなー!!自殺志願の青年は幼い頃から吃音のせいで両親から疎まれ(事に父親から厳しく責められ)長らく引きこもっていたのですが、死ぬ前に誰かと抱き合いたいと手っ取り早く風俗に行ったものの、初恋の子に似ていると思って指名した嬢は似ても似つかぬご面相でしかしながら気立てはよく手当されても役立たずの青年にも優しく接してくれまして、問わず語りに嬢から故郷の稚内の北防波堤ドームの事を聞いたわけです。

この青年は泉という名で、どいてくれと言った途端に目の前で海に飛びこまれた運の悪い男は面倒がりもせず病院から自宅に連れ帰ると、黙って飯を食わせ家に置いてくれ、暗い目をした泉を漁港に連れだします。

始めて経験する肉体労働に自分の脆弱さを思い知らされやっぱり俺は役立たずだ生きる価値はないと卑下する泉でしたが、意外にも船酔いしなかったのを褒められバイト代まで貰うにつけ少し希望が湧いてくるのです。

酒豪で気のいい海の男たちに飲めない酒を飲まされ沈没した泉は、介抱してくれたスナックの色っぽい雇われママに誘われるまま嬉し恥ずかし初体験を済ますと、いつしか身体中の血が勢いよく走り出したような気にもなります。

実は父と離婚して水商売をするようになった母と暮らしていた泉は、母が玄関で倒れ死んでいるのを見つけ放置したまま自分も死ぬつもりで家を出たのですが、テレビで遺体発見のニュースが出るに及びいかんせん現実と向き合わねばならぬ時がやって来たと知ります。

ところが美しい女弁護士と共に現れた父親は昔殴られた恐怖でまともに顔を見られない泉になぜか「学歴がないと話にならないから高卒認定を取り大学へ行け。やがては俺の右腕になるんだ」なぞと勝手な事を申します。

長い間引きこもっていた泉は自分が思い込んでいた事と現実がまるで違うと気づき、父親への憎しみから父の望み通りの存在になった後に思いっきり足をすくってやろうと企みます。

そして女弁護士が父を見る目に自分と同じ憎悪を感じ取った泉は、一緒に組もうと誘い彼女と肉体関係を持つのです。

 

 

子は親を選べないと言いますが、親から虐待を受けた子どもは計り知れない心の傷を負います。

それは多くの場合、大人になって親と離れた後でも行けども行けども抜けられない泥濘のように心の苦しみは続き、メンヘラになって自死してしまったり自分の子どもを虐待してしまったりする事もあるのです。

ここに登場する泉という青年も幼児からの吃音が原因で父親に激しく咎められ、学校では笑われ、唯一仲良くなった女の子に誘われキスしたのが噂になって、怒った父が母子家庭だった女の子を町から追い出すという非道さで、何もかもが嫌になり引きこもりになってしまいました。

しかしながら人間はそれでも自分の人生を歩んでいかねばなりません。

引きこもっていた時は存在を無視され出てきたら今度は駒のように自分勝手に支配しようとする父親の態度に憎しみを募らせた泉は彼が求める優秀な人材となり復讐しようと企みますが・・・・

 

第8巻は引きこもりの青年が父親と決別し自分の人生を歩み始める話でしたね。

主人公が女性経験を重ね大人の男に成長していくのが、ちょっと本宮ひろ志大御所の「俺の空」風(なつかし)

「エロスの種子」のテーマもエロスなんで色んな女性との絡み場面が要所要所に出てきますが、主人公がちょっとやりすぎですね。

ビビりながらの初体験で二回目からは強気に行けるとか、ちょっとモテすぎじゃね?とか思ったし、そんなに簡単に吃音が直るのか?とかなんかツッコミ所がありました。

一話完結でなく1巻通しての長い物語になっています。

そうして、初めて知る父の人生。

作中で「言葉が大事」と言う場面がありましたが、愛情表現が照れくさい日本人は何も言わなくともわかるだろうというスタンスは本当にやめましょう。

親子だって言わなければわからないから。

 

なんか気付いたら、ここ数か月でアップした漫画感想記事が歴史漫画ばかりでしたので、ここはひとまず奇をてらってアダルトっぽい漫画作品をとりあげてみました。

「エロスの種子」WWW(〃艸〃)ムフッ 表紙といいタイトルといい安っぽいエロ漫画かと思うけど違くて、作画とストーリーが良いです。

不埒な男の欲望に搔き立てられて快楽の虜になっていく女の光景を綺麗な筆致で描きながら、人生の哀歓や人間の不可思議さをちょっぴり感じさせるのが良いのですが、今巻のエロスはちょっと物足りない気がしました。キャハ

大学教授の家に住み込んだ書生が教授の前で若い妻と関係を持つとか、戦争で拾われた若い女が女を抱きたくても抱けない主人に代わり抱かれたくても抱かれることのできない女に前戯を担当される話とか、戦友が死ぬ前に妻を喜ばした俺の中指を切り取って妻に届けてくれと頼まれる話とか、これまで官能的で淫靡な感じが良かったのですが、そろそろネタ切れ?