著者:さそうあきら
双葉社アクションコミックス
2025/8/7
例えばゴッホやユトリロやモディリアーニの絵には魂に訴えてくる何かがあり見る人を魅了するのですが、絵は単なる芸術表現にとどまらず、心理的にも生理的にも見る人に深い影響を与えるものです。
主人公の鈴木ムネチカはオタクっぽい感じの高校生ですが、こいつがもう悪魔的な絵の天才でしてね。
ムネチカは「自分は絵を描くのが好きなだけだ。絵を描く以外は何もできないつまらない人間なんだ」と冴えない顔で言っていましたっけ。
ですから無意識なんですのお。
無意識に写生したその絵が人を驚愕させ、ヤンキーがエロ絵で勃起が止まらないとか、弁当の絵を浮浪者がうまそうに食べてしまったとか、まあ1巻は不思議ながらもそこそこ笑えましたが。
しかしこれは不思議な絵を描く少年の話ではとどまらず、2巻ではジョジョに負の側面が表出してきました。
彼の絵が人の人生までをも翻弄してしまうんですがな。
ヤンキーの乾は自分を描いた絵に「これが俺なのか!?」とひどく驚いた様子で、その後介護士になると猛勉強を始めたのは好例ですが、マチコ先生をだましていた結婚詐欺の男は、絵から抜け出した死んだ母親にその罪業を責められ屋上から落下してしまいました。
彼の描く絵がどんな絵なのか説明はないですが、思うに本人でさえ気づかぬその人の本質まで写し取ってしまうのではないか。
とりわけ自分のエロ画を晒されたクラスのマドンナ美潮の激変は痛ましいばかりでして、ムネチカはよもやまさかの右手を電車でひかれるという暴挙に出まして、すると話は段々とミステリー展開になっていきやす。
ムネチカの過去を調べる美潮は彼が一時期児童養護施設にいた事をつきとめますが、そこは火事で焼失していました。
その跡地は現在「バベルブランコ」なるめっちゃ楽しそうな大型ショッピングモールになっていたのであります。
ううむ、とても面白くて読めば読むほど謎が深まります。
さて、前置きが長くてすまんね。
ムネチカを自宅に連れてきた乾ですが、すぐに絵を描こうとするムネチカを見て紙を買いに行ってやります。優しい。
乾は最初こそ不良グループのリーダー格で自分勝手で粗暴でしたが、実は優しい人柄なんですよ。
それに気づかせ、まっとうな道を歩けるようになったのは、ムネチカの絵のおかげだと乾は考えているようです。
でもちょっと留守にしていた間に、家中に雷神とか鳳凰とかの絵を描かれちゃったんだけど借家じゃないかしら。大丈夫かしらね。(いらぬ心配)
乾はうさ坊が刺青をいれるというので心配します。
乾とのの子とうさ坊は幼馴染の不良グループでしたが、介護士という目標を持った乾と違って、うさ坊は「ムトウさんに覚悟を見せるぜ」とか言うのです。
「俺等みたいに貧乏で馬鹿なのはフツーの仕事にはつかれへんていったのお前やろ」と言われ、乾は返す言葉がありません。
ムトウさんが本格的な刺青をいれたのを見て自分もと思ったんだろうけど、ムトウさんてなんか不気味なキャラで腹が読めないんですよね。
家の借金をムトウさんがチャラにしてくれたと思い込んでるうさ坊ですが、ムトウさんが肩代わりしただけなんですが、わかっておらず、憧れてしまっています。
その借金が200万と聞いた乾のオカンが、あの金はおまえにやったのだから何に使ってもよいと言い出すので驚きます。
オカンの度量のでかさよ。
200万を携え「うさ坊を放せ」と組に出向いた乾ですが、当然取っ組み合いになり、乾の背中に彫られた燦然と輝く見事な雷神を見て一瞬みんな打たれたようになるっていうね。
まあすぐにムネチカの描いた絵だとばれてしまいますが。
組のお抱え彫師である國元にはその絵のすごさがわかるのです。
うさ坊はムトウさんに追っ払われ(いい人なの?)仕方なく乾と去ります。
しかし國元と組長は「あの絵はわしらに対するメッセージや」と深刻顔でした。
(。´・ω・)ん? 雷神が?
また児童養護施設の火事から生き残った少年による絵の展覧会に出かけた美潮は本人が暴走した車にはねられ死亡したと知ります。
誰かが何かを隠ぺいしようとしてますな。
誰かって、神倉という「バベルブランコ」を建設した禿が一番の大物ヤクザのようなのでこいつだろうか?
何かってやっぱ児童養護施設の火事は人為的ってこと?
しかしショッピングモールを建設するために施設を燃やすなんてショボいから、まだ何かあるんだろうね。
あと、産廃会社を営むムネチカおじの「俺が正しかったと証明する唯一の方法はお前を守ることだ」という言葉も謎でした。
ムネチカおじは通称死の谷という不法投棄地(防護服とマスク着用じゃないと死んでしまうほどのヤバい産業廃棄物)に忍び込んだ美潮に密かに「ムネチカを頼む」と囁き彼女を突き落とします。
そしてムネチカを探す禿に拉致られ命を落としてしまうのです。闇だわ。
おじさんはムネチカを虐待していたのではなく守っていたわけだ。
しかも何かを知っていたから消されたのだ。
死の谷でドラム缶に入れられたムネチカを発見する美潮の勇気と、美潮の取り巻きだった洋子と智恵の友情が泣かせます。
乾とうさ坊もですが、ヤクザの不気味さとは対照的な高校生たちの友情が爽やかでした。
それぞれのキャラの掘り下げも興味深く、それらを巻き込む目まぐるしい展開になりました。
続きが早く読みたいな。