「イサック」の舞台になってるのは17世紀の神聖ローマ帝国で、ちょいとマイナーな三十年戦争が主題である。
物語はボヘミアにおけるプロテスタントの反乱をきっかけに勃発した、三十年戦争の第一期「ボヘミア・プファルツ戦争」の最中だ。
これは宗教戦争で、宗教改革による新教派・プロテスタントとカトリックが対立しているんである。
無宗教のあたしには、なぜにもっと寛容になれぬのかと解せない事ばかりだ。
だが元々は宗教上の問題が原因だけど、政治的な利害も複雑にからんできて面倒くさいのだ。
以前書いた感想はコチラ。
さて、「イサック」のキーアイテムとなってるのが二挺の火縄銃「尽」と「信」で、これは堺の高名な鉄砲鍛冶・芝草佐平が徳川家康から命じられて作った最強火縄銃だ。
実はこの火縄銃の銃床にはその製法が刻み込まれており、ロレンツォの持つ「信」とイサックの持つ「尽」を二挺合わせれば量産する事が可能になるのだが、それは今のところヒミツ。
知ったらヨーロッパ中の皆が欲しがっちゃうからね。
芝草佐平の弟子だった練蔵と伊佐久は今、生まれ故郷の日本を遥か遠く離れた異国の地でロレンツォとイサックと呼び名を変えて傭兵として闘う宿命の間柄だ。
イサックはロレンツォの「信」の銃を取り戻して師の仇を討ち日本に帰るのが悲願だ。
だが、血と戦乱を望むロレンツォの執念に「尽」の銃を奪われてしまったのである。
(;´д`)トホホ
ゼッタが生きている事を知ったイサックはその行方を知るクラウスを追って、ボヘミアからブランデンブルグ西南にある城塞都市・ヴォルフシュタットへ向かった。
その頃、兄であるプファルツ選帝侯フリードリッヒ五世が神聖ローマ帝国のお尋ね者となった為に、皇帝と契約する傭兵隊長・ヴァレンシュタインに捕らえられたプリンツ・ハインリッヒは地下牢で死を覚悟していた。
もうね~プリンツは初登場の時から常に崖っぷちで死を覚悟しているよね。
この作品は覚悟を持った人たちの物語である。
とりわけ死を覚悟した人は、謙虚で潔く美しいものだ。
ヴァレンシュタイン軍の随伴者キャンプにイサックがやって来ると、エリザベートとクラウスはプリンツを奪還する策を練っていた。
このキャンプってのが、一万の遠征軍に娼婦・兵士の妻・洗濯女・商人など一万五千人の人たちがついて来ているという大所帯だ。兵士の数よりついて来た人の数のが多いじゃん。
エリザベート・クラ―エンシュタイン男爵も洗濯女に変装して諜報活動したりしてね、しかしこの勇猛で腕自慢の女男爵はとにかく牢を襲って斬り込めばいいんじゃねというアバウトさで、緻密な戦略はとても立てられないのだった。
そこでクラウスはヴァレンシュタイン傭兵隊の最強部隊であるスラブ騎兵とマジャール弓騎兵が反目しているのを利用して諍いを起こそうと謀る。
しかしながら二人はイサックと再会した喜びも束の間、イサックが銃を奪われた事を知ると落胆が隠せなかった。
なにしろイサックの銃が戦況を一変させるような場面を目の当たりにしてるからね。
でもイサックは銃がなくても弓で戦うと言うのだ。
一方地下牢では、その英雄的戦いで成り上がって来たヴァレンシュタインが「プリンツの神聖ローマ帝国での爵位を自分にくれたら生命を助けてあげるよ」とか言い出しましてね、捕虜は取らないというヴァレンシュタインが自分を生かして捕らえた目的がわかってプリンツは苦笑いしまして、卑劣な者へは追従しない!さっさとこの首を刎ねろ!キッパリ言うのであった。かっこよ。
歴史上実在した人物と創作した人物が混沌とするこの作品だが、ヴァレンシュタインは実際に三十年戦争で活躍した人物である。
彼の神聖ローマ帝国での野心や成り上がろうとするエネルギーは好きなんだけど、この場面ではどうしたってプリンツの高潔さが際立つ。
プリンツは細身の美形だが結構なパワー型で「ハインリッヒ様は生まれながらの戦士だぜ」と兵士たちからの支持は絶大だ。
フリードリッヒ五世の弟とは言え母親の身分が低かったので、宮廷で安んじるよりも戦地で生きる事を自ら選び、兄の為には命も捨てる可憐さを持つ。
いやねー、戦争なのにきれいごとを言いたいわけじゃないけど、確かに傭兵は金で動くのかもしれないけど。
でも、無私無欲の行動が人を動かす事もあるわけで・・・
人って矛盾してるよね。
しかしなんつーかイサックは鉄砲鍛冶の弟子に過ぎなかったんですが、まあ銃についてはよく知ってるわけだから超絶な射撃も可能かもしれませんが、日本刀に弓まで使えるってアータ、こういうのは当然ながら高度なスキルが必要とされるんで、しかも戦術までできるって、前歴は侍だったのだらうか?
ヨーロッパでは正規の軍人ではない傭兵は忠誠心を持たないから、司令官が死ねばすぐに戦場から逃げてしまうというんで、司令官さえ倒せばいいわけでスナイパーが活躍するのにはお誂え向きなんだけど、この漫画は主人公がなんでも出来て最強にしすぎちゃったと思う。
だからってイサックから銃を取ったら、本来の見所である火縄銃スナイパーの活躍が見られなくなるわけで本末転倒だよねぇ。
1巻でイサックが登場してきた時の衝撃のカッコよさを思い出すと、精彩を欠くような気は否めないな。