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大人の漫画読み

漫画/「サターンリターン」⑥ 鳥飼茜

空虚さと気持ち悪さの第6巻

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(鳥飼茜「サターンリターン」6巻)

遅ればせながら、11月30日に発売したサターンリターン第6巻の感想をなんとなく書いておく。

人は誰であれ普段他人に見せる顔とは違う、汚い面や醜い面を持ってる。

この作品は、漫画ではフツーは描かないであろう、そんな人間の一面をあえて描くんで、そのうえ絵が上手と来てるからもお、とってもインパクトが強いのだ。

それゆえに主人公の加治理津子というキャラには、読者の十中八九が好感や共感は覚えないと思う。

 

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まあ疲れてる時とかお子様のなき声にイラつく事もありますわよね・・・

 

加治理津子は30才。

5年前にデビューしたものの、全然新作が書けなかった一発屋の小説家。

ある日、かつて自分が最も心を許した男友達の中島が夢に現れ、理津子に問いかける。

 

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それほんとにお前の人生?

 

中島は自殺したのである。

かねてから俺は30才になるまでに死ぬと言っていた。

そして理津子のデビュー作「午睡の国」という小説に登場したアオイという青年のモデルでもある。

 

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ちょっとウザい夫

 

理津子の夫・野田一史氏は元担当編集者。

東大卒のエースだったのに妻ある身で理津子にのめり込み、会社は退職、離婚。理津子と再婚した。

二人は仲睦まじく暮らしてるようでいて、欺瞞に満ちた夫婦関係である。

 

一方、理津子の新担当の小出(26才)は、やる気のない理津子と違ってやる気満々でして、なんとか新作を書かせようとアオイのモデル中島の死の真相を調べようと提案する。

すると中島は、死ぬ直前にメールの一斉送信で(なんでかガラケー)8人の女性にプロポーズしていた事がわかったのだ。

いやせめて返信を確認してから死ねばよいのに・・・変だのお。

彼女たちを取材する事で理津子は小説を書こうとするが、知れば知るほど中島がクズ男だったもんで、アタクシたまげたましたわ。

まあそこがこの作品の面白いとこなんだけど。

追憶は美しいかもしれんが現実は容赦ないねえ。

それでも理津子にとっては生涯忘れぬ運命のような男なのだろうが、中島の謎は深まる一方だ。

しかし何が一番謎かつったら、もお加速度的に進行してく加治理津子の不可解な行動である。

彼女のメンタルはヤバ過ぎる。

 

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「アオイにまつわる実在の女たちを解体していく新連載企画」

の珍妙な予告

連載ブチ上げ記念に袋とじヌードをやると自分から言い出した

 

さて理津子と小出は、これまで8人の女性のうち4人に取材を敢行しており、今回名前が上がるのが長谷川ゆきのぞみである。

まず謎の関西女が登場し、どうにも理津子に敵愾心を持ってるようで「自分はこの男を知っている。死んだ知り合いを勝手にどうこう書かれたら精神的苦痛だ」と編集部にクレーム電話をしてくる。

編集部の対応に不満を募らせた彼女は今度はツイッターで・・・

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アオイの死について知っているのは私だけ

10日以内に連載中止しないなら私が自殺します。

 

これがバズって連載は中止になってしまう。

納得できない小出は粘るけど、頭を冷やせと言われてしまう。

でもこんな自死した人をおちょくるような企画は潰れて当然じゃないかな。

中島の妹のえみだって「また加治さんが!お兄ちゃんを馬鹿にしてる!」って怒ってたもの。

ところが理津子ときたら、人が怒っても、人が自分のために動いてくれても、どこ吹く風でのうのうとしてるのよ。

「あーそれなら、全然やめときましょう」とか言い出して小出を憤慨さす。

「死ぬ死ぬ言ってるヤツは死なないから大丈夫です」つって。

 

それにしても、小出が解せないのは理津子と夫の野田との関係だった。

野田は離婚届けを書いたし、この夫婦はもう破綻したのかと思えば今だに一緒にいるわけで。

すると野田は、自分はもう次の人生に向かってるけど自分の都合だけで無一文の彼女を放りだせないと言う。

優しいのかと思えば馬鹿にしたように、彼女が立派に小説を書き上げる事ができるか期待してるから、なぞとまるで挑発するように言うのである。

 

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野田が出て行った途端に笑い出す

 

他人をコントロールするのに必死すぎて自分の目くそも見えてない人だ。

そう嘲笑う理津子に、自分は気づかなかったと小出は引く。

こういうシーンが印象が強すぎるよね。

 

さてその頃、兄の死を独自に追っているえみは、中島と謎のツイッター女を知る男と接触していた。

 

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中島またかよ

ツイッターで自殺する騒ぎをおこしているのはのぞみだと教える男

 

あたしは登場人物の中でいつも胸が痛むのはえみの存在だ。

この作品は自殺というたぶんにセンシティブな問題を扱っていて、あたしは自殺した人についてアレコレ調べて真実を暴こうとするのがいい事だとは思わない。

それが許されるのは家族だけだと思うから。

家族が自殺したら遺族は苦しむ。

自分が悪かったんじゃないだろうかとか、もしこうしてたら死ななかったんじゃないだろうかとか、自分を責めたり、なぜ死んだんだと生涯問い続けるのだ。

うつ状態で自殺する恐れのある兄を持った家族の息苦しさや、第一発見者となってしまった緊迫感が、まだ高校生の彼女には重すぎる経験だもの。

 

一方、野田は元妻の直子と逢瀬を重ねるようになっていた。

それでいて、理津子からの度重なる着信履歴を見ては、ゲームが盛り上がってきたとほくそ笑む。

理津子は理津子で突如として野田の貞淑な妻になり、常軌を逸した御馳走を作りエプロン姿で野田の帰りを待ち始める。

この夫婦いったいもう何が目的なのか、まったくわからん。

また小出は、なんとのぞみに会うために出会い系に登録して大阪へと出張し、のぞみと会う事に成功する。

いやもう編集ってここまでやるんかい。

なんかもうみんな変だよ。

 

この作品では喪失感が大きなテーマになっている。

喪失感というのは「まるで心に大きな穴が開いたようだ」などのように形容されることも多い。

理津子の胸にはブラックホールのように巨大な穴があって、ひゅうひゅうと風が寂しく吹き抜けていくのであろう。

彼女が時折見せる心をどこかへ置き忘れてきたような空虚な表情の中に、過去になくした子供や中島や共になくした何かを思わせるのである。

きっとそれが彼女を変えそして今でも囚われているに違いないがまだ明らかにはならない。

だからそれまで理津子のブラックホールに吸い込まれないようにしないと。

だって負のオーラがすごいから。