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大人の漫画読み

漫画/「10DANCE(テンダンス)」井上佐藤 感想

BL誌から青年誌に移籍した経歴を持つちょっと珍しいタイプの競技ダンス漫画「10DANCE(テンダンス)」です。ほぼ2年振りに新刊の➆巻が発売されたのでなんとなく感想をしたためる次第ですが、考えたらこの作品ももう10年位連載してるはずですが2人が出会ってから時間的な経過はまだ1年経ってないのです(長期連載あるある)

(井上佐藤「10DANCE」既刊7巻)

2人というのはラテンの日本チャンピオン鈴木信也とスタンダードの日本チャンピオン杉木信也です。この天才ダンサー2人は名前が一文字違いなのですが、ダンスのスタイルも見た目も性格もまったく対照的です。

競技ダンスにはスタンダードとラテンがあって通常この2種類のダンサーは決して競い合う事はありません。

ところが例外があるらしいのです。それが標題になっているテンダンス。

なんでもラテンとスタンダードを極めた凄ダンサーがラテン5種目とスタンダード5種目の合計10種目を競い合うという、肉体的にも精神的にも非常に苛酷な大会なんだそうで見た目は豪華絢爛ですがまるで競技ダンスのトライアスロンだとか。

そんなテンダンスに出場しないかと鈴木信也は杉木信也から誘われちゃうわけですが、杉木はイギリス三大大会を7連覇しているスタンダードの帝王とも呼ばれる超有名人でして一方の鈴木は国内チャンピオンでしかなく海外では無名で杉木とは格段の差があります。

そのせいか「なんか腹が立つ!俺コイツ大っ嫌い!」となった鈴木はその場で断わってしまいますがなぜか杉木はあきらめませんでした。

ああだこうだと負けず嫌いを刺激され売り言葉に買い言葉でテンダンスに出場する事になってしまうんです。いやこれは杉木にうまく乗せられました。

杉木も鈴木も既に一流ダンサーですので普段は自分のダンススクールを構えて生徒を教えています。

なので練習は杉木の教室で生徒たちがいなくなった夜11時から、杉木はスタンダードを鈴木はラテンを互いの専門分野を教え合う事になりました。

もちろんペアを組んでいる杉木のパートナーの房子と鈴木のパートナーのアキも一緒ですが、日本人なのにキューバで育ち楽器が鳴るだけで陽気に体が踊り出す鈴木にとってはお堅いスタンダードの練習は困難を極めます。

杉木の指導も基本に厳格すぎて音楽もなくカウントだけでステップを踏む練習ばかりで、鈴木はスタンダードの3拍子になかなか体が馴染めず思うように動けません。

で女性陣が先に帰った後もなんとなく2人は深夜まで練習するようになります。

畑違いのスタンダードに苦戦する鈴木は、アキから「迷惑かけてるだけだからもうやめよう」と言われてしまい辞退しようかと悩みます。

ところが突破口はまったくひょんな事でして、ラテンの洗礼を受けた鈴木は音楽をかけて楽しくないと踊れない人だったわけで、それに気づいた杉木が音楽を流すと途端に踊り出すというね。いやもうホッとしました。

杉木は自分の後を追いかけて来た鈴木にこんな事を言います。

「間違ってなかった

やっぱりあなたは僕の憧れ・・・」

さんざん悩んだあの期間は何だったんだろうと思うほど練習は順調に進むようになり鈴木の目には杉木が変わったように映ります。

いや変わったのは自分でしょうか。

世界戦で踊る杉木を見た鈴木は自分も同じ舞台に立ちたいと考えます。

互いに相手のダンスを認める事で2人の距離はどんどん縮まっていき、それと共に不思議な感情も芽生えてゆくのでした。

 

とまあそんなあらすじなのですが、作中とにかく杉木と鈴木の男2人のダンスシーンがてんこ盛りでそこが売りなんです。

2人は名前だけでなく身長や体格もシンクロするくらい同じでまるでもう一人の自分がいるのではと錯覚しそうになるほどでして、なにしろ天才的な男同士ですから相手も自分と同じように動けるんで、まあ女性と踊るよりもかつてない一体感で2人で踊ることに喜びを見出していくのです。

そのダンスシーンは圧倒的でまるで2人の魂が眩ゆい光を放つようなそれでいてラブシーンにも匹敵するようなセクシーさで古から男2人のダンスというのはセックスと同義なのです。

シチュエーションも素晴らしく室内にとどまらず杉木のダンス教室がある深夜の銀座や、雪が散らつく公園で踊ったりとすこぶるロマンチックです。

踊った興奮が冷めやらず思わずキスしてしまうBL展開も許せる気がするのは必然性を感じるからで、一流のダンサー同士魅かれあってしまうのはわかります。

しかしながらこの作品はBLの枠を超えた本格的なダンス漫画になっています。

杉木は世界選手権だけはいつも勝てず2位に甘んじていますが、それは業界の大人の事情なんですが、たとえ出来レースとわかっていても腐らず正々堂々と1位を取りに臨む杉木の精神力が強ければ強いほど悲痛に感じます。

そんな杉木でも引退を考えた事があり、その時彼を熱くしたのがキューバの血で自由奔放に踊る鈴木だったのです。

鈴木の才能に惚れこんでいる杉木は彼を世界に出そうとしています。

でも「僕についてくれば世界に行けるよ」なんて甘い言葉は言いません。

まるで暴れ馬を調教するがごとく鈴木を導いていくのですが、あくまで二人は対等なのです。

華やかな競技会もいいですが内幕的な描写も興味深く海外から大金を出して招待選手を呼んでるんだから日本人選手は1位になれない、みたいのは実際にありそうです。

無駄のない美しい鍛えられた肉体が見せる圧巻のダンスは心を奪われます。

2人の距離が縮まっていく②➂巻あたりがとても好きなのですが、せいぜいキス止まりでそれ以上に発展するどころか結局異性愛者の2人は男とは出来ないと別れてしまうのです。

つまりどちらが女性役をやるかという問題に両者とも無理となってしまったわけでして、いずれはテンダンスで競い合わねばならないのですからそれも仕方ないかもしれませんがBLとしては面白い展開です。