川路正之進、後に「日本警察の父」と呼ばれた川路利長を主人公にした幕末コメディ。
「だんドーン」第2巻が出ましたよー!
表紙は薩摩藩の小松帯刀ですね。
小松帯刀は島津斉彬の急死後、27才にして薩摩藩家老に抜擢され、幕末から明治維新にかけて活躍しました。
2巻は頭脳明晰なエリート小松と西郷が急接近、そして我らが斉彬公の突然の死と「戊午の密勅」に絡んだすったもんだです。
1巻では斉彬についてお国入りした川路と西郷でしたが、丁度同じ頃、薩摩に単身潜入したのが斉彬の政敵である井伊直弼の忍び集団「多賀者」の頭、人呼んで「怪物タカ」でして。
前巻の感想はコチラです↓
とにかく戦闘民族・薩摩藩というのはすべてが独特でしてね、その特殊な文化が楽しめるのも魅力です。
「薩摩飛脚」と言って、薩摩藩は国の情報が他国に漏れるのを恐れ、薩摩に入国した間者は生きて帰ってこないと言われています。
タカったら、巧妙に瞽女に化けていて見た目は若い娘であります。(可愛い)
配下の多賀者たちは彼女のことを「女じゃない!」と恐れ、大袈裟にビビりまくり目も合わせないんだから大変な人です。
しかしどうやら川路とは同類の者らしく蛇の道は蛇で、他の人にはわからなくても川路にはこいつ怪しいぞ!とわかるわけです。
斉彬に褒められたのを思い出し「エヘン俺は詮議の天才だから」と「怪物タカ」を詮議するんですが、やっぱタカの方が一枚上手。
薩摩に来たのは戦国時代の島津四兄弟好きによる聖地巡礼だと、しれっと言うのには笑ったな。
また皆が大好き斉彬の金銭感覚に触れ(西洋のよくわからない技術の研究や開発をしたり金を使いまくって作ったり)今の薩摩藩は大赤字に陥ってると言われ、むべなるかな、川路どうにも返す言葉がありません。
しかも「怪物タカ」が薩摩に来た目的は、薩摩藩の有名な御家騒動「お由良騒動」の張本人・お由良の方の手引きだったことが判明し、一同仰天の後、詮議は中止して解放することになったのです。
まあ解放とは名ばかり「日向送り」と言って、単に身柄を移送するのでなく薩摩と日向の国境でKILLするんですが(すぐKILLしちゃう薩摩人)、実行する人たちが「こんなおなごを殺さんといかんのじゃろか?」などとしゃべくってる間にタカはまんまと逃げてしまうのです。
タカの話を聞いてにわかに藩の金が気になり出した川路。
斉彬は大好きだけど、集成館の大規模な工場やら見てると、近頃の斉彬に危うさを感じたりもします。
西郷も川路も斉彬に対して、主君への忠義を超えた敬愛ぶりが半端ないんですが、幸せな人たちだと思いますよね。名君なんてそんなにはいないでしょうし、たいてい武士はバカ殿のために切腹したりするんですよ。
その頃、ライバル井伊直弼が、まさかの大老に就任!
これにより将軍後継問題で対立していた一ツ橋派(斉彬)と南紀派(井伊)の争いは、斉彬らが破れたのです。
斉彬はこれに対し藩兵3、4千人をかき集め抗議のため上洛することを決意するというね。
率兵上京のための練兵が始まります
川路は陣太鼓の達人
陣太鼓は軍の進退を指示し士気を鼓舞するもので、練兵を見守る斉彬は小松帯刀に川路の太鼓の上手さを自慢します。
ここでちょっと事件が起きまして。
西郷が、年は若いが身分は上の小松の屋敷に招かれた時、昼寝したらしく無礼じゃないかと問題になったのです。
実は率兵上京をつぶすために、西郷の評判を落とそうと斉彬の父・斉興が小松に頼み、茶に睡眠薬が仕込まれ眠ってしまったのですが。
「わざと寝た振りをして小松様を試した」
絶対絶命のピンチなのに天然の西郷はキョトン顔ですが、察する川路がアシストして煽ります。
すると阿吽の呼吸で皆が協力して、結果「やっぱ西郷どんはスゴイ!」となりました(笑)。さすがは太鼓の達人(そして薩摩人は単細胞なのか?)
そんなこんなで浜辺での練兵中、斉彬は逃げたと見せて潜伏していたタカに殺されてしまうのです。
1858年7月のことです。
斉彬の突然の死でもうバタバタの薩摩藩。
小松の指示で失意の西郷と川路は京の近衛邸を訪ね、率兵上京の中止と自分たちは斉彬に殉じる旨を泣きながら報告します。
すると同席していた清水寺住職・月照和尚が、ノリで腹を切ったらアカン!と思いっきり平手打ち。
西郷や川路の才能を見抜き、薩摩藩の近代化をすすめた名君・斉彬。
薩摩藩が武力により朝廷に圧力をかけようとした矢先のタイミングの死でした。
コレラだったと言われていますが、暗殺を疑うような怪しい状況であったことも確かです。
月照は、井伊直弼のプライドをズタズタにし、斉彬を暗殺した多賀者どもに仕返しせよと2人を諭します。
その作戦名がいわゆる「戊午の密勅」(ぼごのみっちょく)!
密勅の内容は「幕府が許可なくアメリカと条約を結んだことに帝は激おこ」「幕府は各藩と仲良くして今の政治を改革して」「幕府と朝廷で力を合わせ(公武合体)ていこう」というものです。
これは明らかに陰謀で成立した物なんですが、問題なのは幕府よりも先に水戸藩に下賜したことなのです。
京都から水戸まで、多賀者を欺くため三つのグループに分かれ、その中の誰が密勅を持っているのか?尾行する多賀者が結構ノンキで笑う。
そしてなぜか江戸のアダルトショップ「四ツ目屋」の行商に扮した川路、時に囮になり時に護衛をしながら進みますねん。
天然西郷が光だとしたら、川路は影になろうとし、またそれが自分にはふさわしいと思ってるみたいですが、人の心中や物事を事情を推しはかれるっていうのは、人間的に素晴らしいと思うのね。
そして裏の仕事をする人にありがちな暗さもありません。
「日本警察の父」と呼ばれるようになるまでの川路の成長物語なのかと思いましたが、意識的、無意識的かは別にして、彼の裏の仕事で歴史が作られて行く話みたいです。
戊午の密勅から安政の大獄へと時代が動きますから、多賀者との戦いはまだまだ続きそうです。