大阪のとあるボロアパートに暮らす訳ありの人々の日常を描いた漫画「コーポ・ア・コーポ」は読むと癖になるかもしれませんよ。
今月発売の➄巻読みました!
実写映画化決定とな!
川のほとりに建つ、築年数43年の二階建て木造アパート「コーポ」(フツーはコーポOOとかですが、ただ「コーポ」)は風呂ナシ、お湯も出ません。
これは、そんな古びたアパートに住まうどことなくヤバイ人たちの物語でして、そこはかとなく漂うのは底辺の匂いです。貧乏感と、あと昭和感だよな。
表通りから路地裏に入ると空気は濁り、アパートの共同玄関に靴を脱いでくと盗まれるから靴は部屋まで持って行くとか、外に置かれた共同の二層式洗濯機は洗濯物が盗まれるから洗濯中は見張ってなきゃだし、銭湯行くのが面倒な時はシンクで頭を洗ったり・・・やだなあ、こんな暮らしは。(;´д`)トホホ
でも、たとえば真鍋昌平氏が描くような現代のおっかない底辺(八方塞がりで逃げ場のないやつ)というよりは、どことなく昭和感があって、それも高度経済成長期頃の情景に見えます。
ところが舞台は2000年辺りだって言うから驚きました。
俺にはどうにも昭和感が拭いきれないんだがね。
作者の人は連載が始まった時嘘だと思っていたのでしっかり決めてなかったそうです。
まあそれはそれとして、ここに住んでる人たちは飄々としてて、ふてぶてしくて、なんか滑稽なんです。
それがもう不思議な魅力になっていよいよ面白いのです。
で、住人の一人である辰巳ユリ(20代)は川向こうの居酒屋で働いています。
複雑な家庭に育ったユリは非常に無気力な雰囲気の女の子でして、学校の成績は先生もあきれ返るほど悪く、進路をどうするんだと聞かれその場しのぎに専門学校へ行くと言ってみたもののサボり癖が治らず、学校に行ってないことがバレて親にも見放され祖母の家に預けられてしまったり。
今まで人から褒められたことなどなかったユリが「おまえ、よう頑張ってるわ」と店長に初めて褒められ、自分の居場所を見つけられたのが居酒屋「春一番」です。
その店長ってのが岡林真理(30代)。
この作品はアパートの住人と彼らに関わる人とを主人公にした群像劇の構成になっていまして、各話は時系列ではなく過去の出来事に遡ったりします。
今回は当時の店長が横領でクビになったため、いきなり「春一番」の店長に昇進した岡林が従業員を募集し、ユリたちが応募してくる過去話。その中には岡林の恋人こずえ(30代)もいました。
ところで岡林さんたら、今回の人気投票でダントツ一位になってましたね~
かっこいいもんね~
岡林は中性的で常にポーカーフェイスでして、よく気がつくし頼りになるし登場キャラの中ではまともな人物。
とにかく居酒屋の面々がまた困った奴らばっかなので、キレながらも面倒を見たり振り回されがちなのが可笑しい所です。
表紙にもなってる岡林とこずえの関係は恋愛未満のゆるい百合テイストでしてね、こずえは愛らしいのだけど根無し草のような生き方をする女性で夫がいるけどうまくいっていません。
岡林は余計なことは何も言いませんが、心の中ではこずえが夫と別れて来ればいいのにと思っています。
この二人、どうなるんだろうなあ。
しかしまあ、人に歴史ありと言いますが、言わないかもしれませんが、このアパートに流れつくまでには皆それなりの出来事があったわけです。
石田鉄平(20代)は物心ついた時から、ヤクザの父親は刑務所を出たり入ったりで母親は夫が服役中若い男を引っ張り込んでましてね、両親を見る目は冷めていました。
彼は父のように道を踏み外すことはなかったのですが、何の保証もない日雇い労働に従事する日々で、生活の不安や焦燥からつい女に手を出してしまいます。
しかしなぜかこういう男に限って女にモテる。
ある夜、風呂もないアパートに女を連れ込み、女の声の大きさにアパート中がうるさくて眠れず、翌朝住人の中条紘(30代)から「野良犬より始末が悪い」と嫌味を言われます。
そんでもって、言い返す言葉が見つからず思わず手が出てしまう石田。
殴りはしなかったけど、中条のワイシャツのボタンが取れてしまいました。
中条はいつもキチンと背広を着た男前なのですが、何をしてるのか得体が知れません。
実は働きもせずに女に貢がせています。
ホントは九州のどっかの島の網元の跡取り息子で大学も出てるんですが、人生ってわからないものです。
自分はもっとひとかどの人物になるはずだったのにという悔恨と、這い上がりたいと願いながらも、何ら努力するでもない毎日。
金をもらうために女に会いに行く自分を卑下しながら、たとえ女を殴っても自分で金を稼ぐ石田の方がまだましだと思ったり。
この二人はどうも相性が悪く以前も揉めたのですが、まあ今回は迷惑なのは石田ですし、ユリと殿山泰司似の宮地(70代くらい)から中条に謝るよう言われます。
若い石田は外見よりも優しくて、内心ではつい手が出てしまうことを気に病んでいるのです。
なんだかんだで中条に謝って和解できました。めでたしめでたし。
一方、「春一番」の従業員の西岡は暴走族なんですが(年末年始は暴走で忙しいから仕事は休む)なんでも器用にこなしコミュニケーション能力も高いので岡林も買っています。
ヤンキーかと思いきや、母子家庭の長男でめちゃめちゃ家族思いなのが知れる回です。
母親の再婚相手が逮捕され離婚届を書いてもらったけど、子供たちの養子離縁届けを書いてもらうのを忘れたと言う母親。
ところが相手は北海道に移送されてしまったためにおいそれとは行けません。
そこで西岡が考えついたのが・・・「ちゃおスララ」という妹のおもちゃでサインを偽造すること
なんかすげえ。
イレギュラーな状況にも臨機応変になんとかしてしまう要領の良さに感心しちゃったよ。
やる気を出せば店長くらいすぐ務まりそう。
そして、石田の父・健児と彼を「お兄ちゃん」と慕う舎弟のタカヒロが出会った時の話。
タカヒロは薬物中毒者で歯もないですし、言ってることもやってることも普通じゃないのですが、ヤクザの石田父はメンタルやばい人には慣れてるんでしょうね。
なんかもう犬みたいに石田父になついていてキモイんだけど、社会から逸脱した二人がツルんでいるのが、なんだか可憐に思えてくるのですがな。
そうしてユリと高橋が海遊館に遊びに行きます。
(海遊館行ってみたい)
高橋は石田の会社にアルバイトに来た元女子大生で、今はOLでして、キチンとした家庭の子なのですが、なぜか時々遊びに来てユリとも仲が良いのです。
ユリと高橋には格差があると思うけど、高橋はそんなこと思ったこともないでしょう。
ユリはちょっと、何を考えてるのかわからないなあ。
案外何も考えてないのかもしれないねえ。
ユリはなんか糸の切れた執着の無さや儚さを感じますね。
世の中には、目標もなくなんとなく生きてる人もいます。
そういう人にもかけがえのない人生があるのです。
人生を諦観しながら生きる人々への、作者の温かい目線を感じる次第です。