ご挨拶
昨年度はお付き合い賜り
誠にありがとうございました。
遅ればせながら
本年もよろしくお願い申し上げます。
映画/「ブータン山の教室」
パオ・チョニン・ドルジ監督
2021年公開/110分
これは新年にふさわしい心が洗われるようなブータン映画でしてね、ところでブータン知ってる?
ブータンはヒマラヤ山脈の東の端にある仏教王国で人口は77,2万人、広さは九州くらいの小さい国なんですのよー。
2011年の東日本大震災の後にブータン国王が来日したのを覚えてませう?
ブータンは「世界で一番幸せな国」だと言われていました。
しかし幸福度(脳内)の高さを誇った伝統の国も、いまや近代化の波に揺れているそうです。
この映画の主人公の青年ウゲンは一応教師ですが、やる気ナッシングでして、オーストラリアに行ってミュージシャンになるのが夢などとほざいては、育ててくれたおばあちゃんを嘆かせています。
そんなだから、上の人からおまえルナナへ赴任しろや!っつわれるわけです。
ルナナは標高4800mの高地にあり、首都のティンプー(標高2320m)から一日バスに乗り、それから徒歩で7日 Σ( ̄ロ ̄lll) もかかる想像を絶する辺境の地です。
ブータンの若い人は外国に行きたがる人が多いそうで、そんな若の代表がウゲンなんですよね。
バスが到着するとルナナから迎えに来た青年ミチェンが待ってるんですが、ウゲンは初対面のミチェンと食事する時もずっとヘッドフォンで音楽を聴いてるし、ずっと携帯をいじってるし、礼儀正しいミチェンとは対照的に、自国の伝統や文化を拒否するような不遜な態度です。
でも全然着かない。
もうね、ずーっと山を登ってるわけ。
ちっとも村に着かないから「アンタはあと少しです!あと少しです!と嘘ばっかり言ってるじゃないかー! ヽ(`Д´)ノプンプン」とミチェンに逆ギレしちゃう。
1時間50分の映画の最初の30分くらいはルナナへの道程ですから、いかに最果てかわかりませう。
失礼極まりないウゲンではあれど、さすがに苛酷な自然の中を行くうちにちょっと目が覚めて来ます。
とても寒いのに裸足の老人に「靴を履かないんですか?」と聞くと「お金がないからね」とか言う返事なんですが、幼い子供には赤い長靴を履かせていました。
携帯の充電も切れちゃう。
ヘッドフォンを外し、やっと自身が身を置く世界に目を向けます。
ブータンも地球温暖化の影響で雪が少なくなっているそうです。
いやー、ヒマラヤの山々を見渡す雄大な景色が圧倒的に素晴らしいです。
標高4800mの高地とか一生行くことはないと思いますが、澄み切った空気が感じられるようです。
神の領域に近い場所ですから、そこはかとなくスピリチュアルな気持ちになります。
それに人が優しいんですよー。
村長は「子供たちが大人になっても仕事はヤク飼いか冬虫夏草を集めることしかないが、学問があれば別の道がある」ととにかく子供たちに教育を受けさせたいと訴えます。
でもウゲンは板を渡しただけの汚い便所とか、窓ガラスの代わりに紙を貼っただけの家とか、学校っつっても黒板も教科書もノートも鉛筆もなんもねえ、電気もねえ、車もねえ、マジ無理!もう帰りたい!と言い出す始末でしてね。
そんなダメ教師でも怒るどころか、村長は無理強いはできないから帰る準備するねと言ってくれるし、子供たちは先生が来るのをそりゃあ楽しみにしていて、早く勉強したいとワクワクしてる。
自分を慕ってくる無邪気な子供たちと触れあえば楽しいし、村民の先生へのリスペクトが可憐なくらい純真なのでとても大事にされるわけです。
また村一番の歌い手で「ヤクに捧げる歌」を歌う綺麗なおねいさんともお近づきになり、なかなかどうして素朴な貧乏生活もまんざらでもなくなるウゲン氏。
彼の役割は、雪が降り道が閉ざされるまでの期間限定なのでそれまで頑張ってみようという気になります。
集落の中にはアル中で酒に溺れてる人もちょっと出てきますが、女性の方が強いのかミチェンが奥さんに言い負かされたり、純朴な村人の暮らしぶりはほのぼのとしたものです。
とまあ、ブータンの都会の若者が僻地での生活に戸惑いながらも、村人と過ごすうちに自分の居場所を見出してゆくという内容です。
ブータンは1999年にインターネットとテレビ放送が解禁され、他国の情報が入るようになりました。
その結果、現在では国民の幸福度は下がってしまったのです。
まあ何も知らなかったから幸福というのはあるよね。
インターネットは便利ですが、その恩恵よりも他人と自分を比較するようになり幸福度が下がるとは皮肉なものです。
人間が物質的・経済的な幸福を求めるようになるのは、これは仕方ないことです。
知ってしまえば知らなかった時には戻れないのです。
でも文明を知らない中に精神的な幸福があったことを思えば、人間の真の幸福とは何か考えさせられます。
電気のないルナナでの撮影のため、65頭の馬で4台の太陽電池を運搬し、35人の撮影スタッフが現地で寝泊まりするための食料もろもろ全部運んだそうです。
ご苦労なこってす。
それゆえ、我々はこんないい映画を観ることができたのですね。
学級委員のペン・ザム役の子も現地の少女だそうで、キラキラ輝く瞳が印象的です。
このキラキラした子供たちの目とルナナの風景にはまったくもって心が洗われるようでござんした。