
著者:水木しげる
講談社文庫/電子書籍版
2022年7月
連日暑うございますなあ。
1973年に発売された水木しげるの戦争漫画「総員玉砕せよ!」を、kindle unlimitedの読み放題で読みましたので、そこはかとなく感想をしたためておきますね。
水木しげると言えば、あてくしは2023年に映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」を面白く観たりしたんですが、考えたら鬼太郎シリーズのアニメで親しんでいたけれど、漫画作品を読んだのは始めてでしたよ。しかも妖怪じゃなく戦争漫画。
この作品は、作者のあとがきによりますと90パーセントが実話だそうでして、太平洋戦争末期の南太平洋のニューブリテン島のズンゲンでの(作中ではバイエン)、水木しげるが所属していた成瀬大隊(作中では田所支隊)の玉砕事件の顛末を描いています。
(水木しげるは玉砕事件があった時は既に、マラリアで療養中に空爆を受け左腕を吹き飛ばされ後方に移送されていたのです。ヘビーですわねー)
マジで「戦争体験者が綴るガチなやつなんだな!すげえ」と感心しつつ、壮絶な中にも漫画的なユーモアも忘れない比類なき作品でした。
では、あらすじ。
1943年(昭和18年末)、赤道直下のニューブリテン島ココボにて「こんど行くところはパパイヤのようけある、天国みたいな所らしい」と戦友の赤崎から聞かされる丸山二等兵。(丸山がどうやら水木しげる)
そこへ上等兵が「おいおまえら、みんなピー屋へ行ってんだ。おまえらも行ってこい」と言うので2人はピー屋へ行きます。
(ピー屋???)
なんか慰安所のことみたいなんですが、閉店時間まであと5分しかないのに70人も並んでおるんですわ。
列の後ろの人が「おい早くしろ」とか「1人30秒だぞ」とか怒鳴ってる。
兵隊さんたちは隊の出発前にやっておきたいのね。
でも姉さんはもう体がもたないと店じまいとなりましてね、皆で「女郎の歌」なるものを大声で合唱してその日は暮れます。(なんとなくコミカルタッチ)
翌日、新しくバイエン支隊長となった田所少佐指揮のもと出航し、バイエンを無血占領に成功するのです。
そこは静かで誰もいない島で確かに天国みたいに見えましたが、そうではない。
そこは全員が天国にゆく場所だったのです。
前半は兵隊の日常がどこかユーモラスに描かれています。
雨季で連日雨が降り続く中を、陣地を構築とか言って椰子の木を伐採して運んだり(すごい重労働)椰子の木の下敷きになって死者が出たり、ワニに引っぱりこまれ(水音も叫び声もしなかった)死者が出たり、栄養状態が悪いので熱病にかかり死者が出たり死者が出ます。
日本軍は食料は基本現地調達ですから、こんな島じゃ飢えるに決まっているおん。
日本軍の戦は戦闘より飢えとの戦いなんや。
丸山ら初年兵は理由もなく上官から「ビビビビビン」とビンタの応酬を受け、やってられんと思いながらも我慢するしかありませぬ。
季節柄、正月が近く、正月用にブタを取りに行けと命じられますが、ジャングルにブタおるん?
ブタの捕獲に失敗し、代わりに手榴弾で魚を獲ることになりまして、魚が手榴弾で気絶したところを捕まえるのですが、大漁だったので持ちきれなくて口にくわえたら、(空腹で生の魚を食べたかとおもったざんす)これが口から魚が抜けなくなって窒息死してしまったのです。
実に兵隊の命はあっけなく、みじめに消えてしまいます。
丸山、やっぱ絵は上手なのでしょう。
中隊長の花札がボロボロなので絵を描いてくれと頼まれるついでに、自分の顔を描いてくれと頼まれたりします。
そしてもう「ビビビビビン」とビンタばかりされる。
「初年兵整列!」つって、きさまらたるんでるぞと毎日殴られる。
あたいは昔観た映画「男たちの大和」(2005年)で中村獅童さんが「兵隊を殴れば戦争に勝てるのかっ!?」と上官に逆らった場面を思い出したアルね。
それでも靴をなくした丸山に自分の靴をくれる軍曹もいましたし、丸山も上官にわからぬようにコッソリ陰湿な仕返しをして、せめてもの鬱憤を晴らします。
だが、敵に撃たれまだ息があるのに軍医が「遺体が敵の手に渡る前に遺骨を作る」と言ってスコップで小指を切るよう命じられる場面は息を飲みましたね。(まだ生きてるのよー)
見つけた敵のアジトに突入すると缶詰やチョコレートが一杯あってたまげる一同。
「こんな贅沢なものを食って戦争してたんだなあ」なんぞとしみじみする一方で、ここでも「初年兵のくせに食うな!」などと意地悪を言う奴がいます。
古参兵による苛烈ないじめ。
あまりにアホらしくって、こんなのが日本の軍隊だったのか。ハ~(ため息)
しかし本土が攻撃されてボロボロだという噂でしてね、だったらなんでこんな島を命がけで守っているのかと皆は疑問を抱き始めます。
なんのために?
それはもう誰にもわからないのですがな。
熱帯のジャングル。湧き上がる雲。燃えるような太陽。強い生命力を感じさせる異国の情景が素晴らしい筆致で描かれているのも見所です。
ついに連合軍が圧倒的な戦力で上陸してきますが、追い詰められる日本軍は敵の物量に対し、ご想像通りの肉弾攻撃しかない!と。
なぜそういう発想になってしまうんでしょうか。
司令官である田所少佐はまだ若く楠正成マニアでして、美しい死に場所を得たいんやと(ふざけるなー)性急に決断したために、兵士500人は玉砕せねばならなくなってしまうのですが、本当に今の時代の我々には理解できません。なぜ?ホワイ?
あ、でも、「馬鹿な大将敵より怖い」って、こういう時に使う言葉だったんだと納得。
わけもわからず無謀なバンザイ突撃が敢行され、しかし問題は、玉砕のはずが大勢生き残ってしまうのであります。
もうラストは鳥肌じゃけん。
なんかすごい物を見たという気持ちになりました。
戦記物を描くとわけのわからない怒りがこみ上げてくるという水木しげるの執念が乗り移ったような名作でして、一読の価値ありです。