akのもろもろの話

大人の漫画読み

漫画/「これ描いて死ね」③(ネタバレ)感想

「マンガ大賞2023」受賞ということで4月発売の3巻の感想をなんとなく書いときます。

(とよ田みのる「これ描いて死ね」3巻)

ゆうてこの絵柄を見ただけで普段なら絶対買わんと思ふね。

舞台は伊豆王島という東京の離島でしてね、主人公の安海相(やすみあい)は漫画が大好きな女子高生で漫画に夢中なんですが、もうね冒頭から「エ~?コロコロかよ~」と見まがうばかりの古い感じの絵とか子供っぽいキャラとか主人公としゃべるタヌキとか恐怖しかなく、あたくし最後まで読み切れるだろうかと不安になりました。

さらに「漫画なんてすべて嘘です!」と相にダメ出しで全否定する手島先生に「今時こんな教師いるかね?」と痛さ倍増。

ところがところが読んでいくうちに、そんなことケロっと忘れ引き込まれちゃいます。

面白いです~

憧れの漫画家☆野0(ほしのれい)先生の10年振りの新作がコミティアで頒布されると知るや離島から船で初めて東京へ行ったり、☆野0の正体がよもやまさかの手島先生だったり、コミティアで漫画は読むだけでなく自分で描けるんだと知り漫画同好会を立ち上げようとするなどテンポよく話が進みます。

同好会が立ち上がるまでの紆余曲折とキャラクターたちの丹念な人物描写、また手島先生が顧問なんで漫画の描き方やアドバイスなど非常に的確で感心しますし、創作の楽しさや苦しさや喜びが笑いの中に描かれ感動があり愛があるんです。

漫研では相が話を作り絵が上手い藤森心が絵を描く分業スタイルでして、漫画は一人でコソコソ描くものじゃなく部活動として先生や仲間と挑んでいくという展開です。

さて➂巻では、コミティアが終わり次に何を描こうか?と悩む相に「創作はインプットとアウトプットを繰り返す行為です。出して空になったらまた入れたらいいんですよ」と助言する手島先生。

手島先生は作中の重要なキーマンで真の主役は彼女です。

漫画のネタを求め島で刺激を探そうと、漫研一同は泉津の切通し・地層大切断面・裏砂漠・三原山など観光地としても有名な場所を巡ります。(作者さまは伊豆大島のご出身かな)

素晴らしい自然の中で相の夢も広がるわけでして、キャッキャウフフと気の合う仲間同士で溢れる妄想を語り合い、自分たちが暮らす島の良さを再認識したり、なんと言うか・・・離島のせいなのかな?チクショーみんな本当に素直でいい子たちなんですよ。

手島先生は相が次にやりたいことがないんじゃなく、やりたいことが多すぎて決められなかったんだと気づきます。

手島先生といい島の貸本屋の寺村七さんといい相たちを見守ってる感じがいいんですよね。

で、次はSNSで漫画を発信しようぜということになり、週に1本、4コマ漫画をアップすることにしました。

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身内だけで盛り上がる(苦笑)

漫画の出来はともかく、みんな仲が良くてほんとに楽しそうです。

まあ特に明示されてませんが、とかくオタク陰キャなどと蔑視されそうな漫研ですがね、たぶん相もしゃべるタヌキを連れてるくらいだから周囲からは変な子だと思われてると思いますが、仲間ができるっていいわよね。

思えば彼女たちの漫研は分業体制になってるし顧問は手島先生のようなプロ漫画家だし部活動として実に最高な環境じゃないですかやだー。

最初はネットで自分たちの漫画を世界に発信したってんで盛り上がっちゃうんですが、ありがちなことでいいねやリプの数にいちいち振り回されるようになります。

その結果彼女たちの漫画は本来持っていた良さを捨て、要するに読者に媚びるようになってしまうんです。

高校生にしてコミティアの壁サーである実力派・石龍光はエキセントリックな天才肌ですが、この漫画を見てつまらないと速座に言います。

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そうなんです。

手島先生は漫研を立ち上げた時に

・学業を第一優先にすること

・プロを目指さないこと

・あくまで趣味の範囲に徹し「これ描いて死ね」などと漫画に命を懸けないこと

と、彼女たちに申し渡しました。(その時はみんな手島先生のギャグかと思い大爆笑でしたが)

この作品のテーマは自分が納得できる漫画を描くってことだと思うんですが、これは趣味でやってるブログにも言えることですが他人の評価を気にせず自分が書きたいものを書くって非常に大切なことです。

なんかもうね、様々な気づきを与えてくれますよ。(冒頭でけなしてスミマセン)

そんなわけで初心に帰り路線を戻すといいねは減ってしまいますが、これでいいんだとみんな思います。(やっぱ素直ですね)

ところで、いつもコメントくれるアカウントが実は手島先生だったというね。

そうして手島先生が愛しそうに見ているのは、かつて相が☆野0に出したファンレターでした。

安海相(小3)てありますよー

「今度は私の番ですね」ってなんか泣かせるぜ。

➂巻ではそれぞれのキャラを堀り下げてるんですが、心と姉の物語、石龍と赤福の物語へと続きます。

ただもう純粋に漫画が好きでついに自分でも描き始めちゃった相や、漫研と美術部を兼務する絵が上手い心と違い、赤福は漫研では創作には関わらず批評家的なポジションということになっています。

そんなポジションあるのかよと思うけど、これがまたいい意味で力が抜けて可笑しいんだよね。

「この世の90%はカスである」という石龍の母親へびちか先生の持論もまったく通じない作中最強のキャラです。迷いがないよ。

ってか、石龍の母親がへびちか先生だったとはビックリしたΣ( ̄□ ̄|||)

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手島先生は過去にへびちか先生のアシスタントをしていたのですが、なぜ漫画家をやめて教師になったのかが気になります。

この作品は漫画家が描く漫画家の漫画というよりも、漫画家を目指す以前の初期衝動を描いています。

一方「これ描いて死ね」というバイオレンスな題名の意味は巻末の手島先生の過去を描いたエピソードを読めばなるほどと思うわけでして、新人漫画家残酷物語ですな。

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もう作風も違いますし、本編は明るくポジティブな漫研の話と巻末に手島先生の過去回を乗せる構成となっています。
こっちの方が好みかな。