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映画/「マイ・ビューティフル・ランドレット」

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(「マイ・ビューティフル・ランドレット」1985年イギリス/98分/スティーヴン・フリアーズ監督)


感想を書きたいと思っている映画がたまってしまって困るのお。

この作品はちょっと前に、LGBT映画二本立てつー事で「WEEKEND」と同時に鑑賞。

日本では1987年に公開されたもので、第59回アカデミー賞脚本賞にもノミネートされた、ダニエル・デイ=ルイスのスクリーンデビュー作でございます。

近年続々と昔の名作がデジタル・リマスター版としてよみがえっているのは大変うれしい事ですな。

この作品はまあゲイ映画に名を連ねてはいるものの、ゲイを真正面から描いたというよりは、80年代の混沌としたイギリスの時代状況(サッチャー首相の時代)を捉えた作品でありましたな。

ざっくり申せば、パキスタンの青年オマール(ゴードン・ウォーネック)と幼なじみのジョニー(ダニエル・デイ=ルイス)が、古ぼけた不良の巣窟みたいになってたコインランドリーをリニューアルして経営を軌道に乗せようとする話なんだ。

ランドレットってなんだろって思ってたら、コインランドリーの事だったのね。

わたしの美しいコインランドリー・・・

 

さて、なんでパキスタン人?と思ったんだが、イギリスって移民大国なのである。

戦後の労働力不足を補うために積極的に移民を受け入れたイギリスは、今では彼らを巡り様々な問題を抱えている。

これが公開された当時の日本てまさにバブル期に突入しようとする時代だった。

その頃は日本人の誰もが移民問題など無関心だったと思うけど、今や日本だって他人事ではないよね。

 

オマールはロンドンの安アパートで父親と暮らしている。

父親はかつては新聞記者をしてたインテリなんだが、今は落ちぶれてしまってアルコール漬けの日々を送っているというね。

ベッドでウオッカをラッパ飲みしてるんで驚くが、絵に描いたようなアル中親父というよりは息子に話しかける口調も優しくてユーモラスで、それだけに痛々しい感じなのである。

父親は何もせず家にいる息子の身を案じ、弟のナセルにおまえのとこで使ってやってくれと頼む。

この叔父さんがまたオマールの父とは対照的なやり手でして、手広く事業をやってて羽振りがいいのだ。

レイチェルという白人の愛人までいる。

つまり同じ兄弟でありながら兄は負け組で弟は勝ち組ってわけだ。

野心的なナセルはオマールに「おれたちが愛と憎しみを抱いているこの国ではなんでも欲しいものが手に入るんだぜ」って言って聞かせる。

つまり金が大事だって事よ。

オマールは洗車係の仕事を得るが、ニコニコしてる割にけっこう抜け目なくて、叔父に頼みこみ古いコインランドリーの経営の立て直しを任される事になる。

 

ある晩オマールは右翼の人種差別主義者の若者たちに襲われそうになるが、その中に幼なじみのジョニーを見つけ懐かしそうに駆け寄る。

オマールはコインランドリーを再建する仕事にジョニーを誘うが、元の仲間たちがなんで移民のとこなんかで働くんだ!つって嫌がらせに来たりして大変なんだね。

ところが話が進むうち、唐突にジョニーがオマールにキスするもんだから、ああ二人はそういう関係だったのねってわかるわけだ。

 

とにかく若き日のダニエル・デイ=ルイスがカッコいいのよ。

高身長なのに身のこなしが俊敏で並んでる洗濯機をサッと飛び越えて来るシーンとか、ドキっとしちゃう。

ファッションもアイドルか!ってほど決まってるし、なんか仕草の一つ一つがもうカッコ良いのである。

確かこの時28歳かな。

後にアカデミー賞の主演男優賞を3度も受賞する名優の片鱗も見え、もう彼の演技を見てるだけで映画代も惜しくない感じだ。

しかも名優だからラブシーンも上手いのである。

俳優がゲイの役を演じるってのは難しい事だと思うが、特にラブシーンというのはぎこちなく見えてしまう場合が多い。

でも彼が演じると実に自然で、オマールの顔を両手で包み込むようにキスするとこなんか、愛する者への愛しさが伝わってくるほどだ。

彼が背後からさりげなくオマールのジャケットを脱がし、ワイシャツのボタンをはずして手でまさぐるシーン(オマールはワイシャツ半脱ぎでいわゆる裸ネクタイ状態)なんかは、ちょーエロいっつー事で伝説である。

 

しかしジョニーに対して無邪気に見えたオマールが、実は何か含むところがあるのだ。

二人はお互いになかなか口に出しずらいものを抱えているように見える。

オマールはイギリスで生まれた移民二世であり白人労働者階級地区で育った。

イギリスの宿痾のような階級意識の中で、白人労働者階級は言ってみれば生まれながらの白人としての恩恵から疎外されてしまった人たちだ。

彼らは移民に自分たちの仕事を奪われ、移民は望まれない存在だと国へ帰れと叫ぶ。

オマールも学校で「Paki!」という言葉を浴びせられいじめられたと言う。

ジョニーはオマールの一家と親しかったが、大きくなるにつれ右翼活動に近づくようになり人種差別デモに参加しているのを見られてしまったのである。

この事はオマール一家にはとてもショックな事だったのだ。

二人は恐らくはお互いが初めての恋人だったのではないか。

しかしこの事が原因で疎遠になってしまったのである。

ジョニーの事が好きだが、彼の過去の行いが忘れられずオマールは複雑な気持ちを持て余しているように見える。

そしてジョニーはと言えば自分の過去の言動を後悔していて、オマールと以前のような関係に戻れた今、彼のためなら何でもしよう、すべてを捧げてもいい、くらいの気持ちなのだと思う。

 

確かにジョニーって腕もたつし裏の世界にも顔が利いて役に立つのよ。

移民の家族は人種で固まったコミュニティを持ち、その中には英語を話せない人もいる。

オマールもナセルに紹介されてその仲間入りをする。

移民は移民で、成功したグループとコミュニティから疎外された者(オマールの父みたいな)とで分断されている。

ジョニーは見所があるつって彼らから気に入られるが、いまや立場が逆転して白人が移民に雇われる状況となっているのである。

ナセルの愛人のレイチェルも同じである。

金儲けに夢中のオマールはコインランドリーを改装する費用を捻出するために、一族のサリームを欺いて裏稼業の麻薬をくすねる。

ちょっとオマールヤバイよと思う展開だが、オマールに頼まれたジョニーがそれを捌き、二人は金を手にしてコインランドリーを改装するのである。

改装つってもジョニーが自分でペンキ塗ったりしてたけどね。

そして「POWDERS」という看板を掛け二人のコインランドリーは完成する。

暗闇に浮かび上がる青白い照明。

あの薄汚いコインランドリーが素敵に生まれ変わって、リニューアルオープンの日には開店前の行列が出来る。

そこではナセルとレイチェルがワルツを踊り、奥の部屋ではジョニーとオマールがこっそり愛し合う。

私の美しいコインランドリーって、二人が愛し合える美しい場所だったのね。

ちなみにこの映画に登場するラブシーンはNY版「TIMEOUT」の「The100 best sex scenes of all time」(映画のセックスシーンベスト100!なんちゅうランキング笑)に選ばれるほど映画史に残るものらしい。

 

宗教や文化や生活習慣も違う異民族同士であってもジョニーの気持ちは揺るぎない。

なのにオマールはナセルから娘のタニアとの結婚を望まれ、なぜか彼も承知してしまう。

えーっ、なんつー裏切り行為!と驚くが、これもまた文化の違いなんでしょうな。

(彼女が颯爽と家を捨てなかったらたぶん結婚しちゃってたよね)

するとジョニーはまるでタニアに気があるような様子で近づき、その気になったタニアは二人で一緒にここを出て行こうと誘う。

彼女は彼女で、金儲けばかりで女は蔑まれるこのコミュニティにウンザリしてたのである。

しかしジョニーはアッサリと彼を置いては行けないと断り「あんた、奴隷みたいにこき使われるだけだよ」なんて言われるが「Yor ever touched him?きみは彼に触れたことがある?」って聞くのだ。

これはつまり彼女に彼と寝たのか?って尋ねたんだろうと思うけど「俺は寝てるぜ!ハイ俺の勝ち!」と言ってるようなニュアンスに感じた。

この映画はホモ・フォビア的なものがまったくなくて、みんな二人の仲が怪しいと思いながらも寛容なのがとてもいい。

オマールの父親がジョニーに、教育を受ける大切さや二人とも大学へ行くように話すとこもいいな。

なんで移民問題にゲイの話を絡めたんだろうとは思ったけど、階級や性別を越えた違う生き方だってあるんだ。

若者にはそれを選択する自由があるのである。

なんだか未来が明るく感じられるような映画だった。

とにかくダニエル・デイ=ルイスがカッコ良い(しつこい)