家に乗り込んで来た伯母さん夫婦の追求に対し、遂にしげるを崖から突き落としたと白状した静子ママ。
修羅場と化した長部家の居間(´д`|||)
この作品のテーマはいわゆる毒親で、母親と中学二年になる息子の仲が良すぎてチョット過保護だよなあと始めのうちは思う。
けど静一って素直ないい子なんでまあ可愛いのは仕方ないよね・・・とも思ったから、静子が静一にベタベタする姿が胸クソ悪かったけどあたしは耐えた(;>_<;)
だがしかし、静子が甥のしげるを崖から突き落とした事件でこの母親の異常性に気づく事となる。
確かにしげるって悪ガキだけど、フツーそこまでやらないし、静子がどうしてそんな事をしたのか動機ってもんが皆目わからないわけだ。
夫婦仲が良くないとか夫の方の親戚付き合いが嫌だとかしげるが静一を陰でイジメてたとか、色々な問題が浮かび上がってくるけど、作者はわざと心理描写をしないので憶測に過ぎないんですよね。
肝心な事がわからないまま不穏な気持ちで読んでるとプロットがうまいんで、静子が息子を惑わす可愛い女子中生の吹石さんから遠ざけようと静一の自由を束縛して管理しようとしたり、自分の思い通りになるように支配下に置こうとしたり、もうダンナなんかどうでもいいわって態度で息子をマインドコントロールする展開まで見せられましてね。
ついに来るとこまで来たな、静一この先どうすんねん。ダメ男になるだけやん。と読んでてため息でてくる。
しかし面白いんだけど、他人に積極的におすすめできる内容ではないっつーか、えーアンタこんなの読んでるの?って引かれたらどうしよう。
だがヒジョーに本は売れているのだった。
伯母さんは自分が突き落としたと白状する静子を見て、やっぱりねって顔をする。
最初に会った時から気持ち悪かった!何かっちゃあ「ごめんなさい」「すいません」ばっかり言って!!いっつも隅っこで暗い顔して座って、静一にべたーってくっついてこっちじとーって見て!!なんであんたにしげるがこんな目にあわせられなきゃなんないん!なんなん!?
(この伯母さんは初出から群馬弁丸出しであたし的にはツボなんさ)
静子の暗さ、何を考えてるのかわからない得体の知れない感じが不気味で気持ちが悪いと伯母さんは叫び、鬼の形相で怒る。元々が般若に似てるんで。
この漫画の面白さは登場人物の表情の豊さもあって、人間の顔って様々な表情を見せるものじゃないですか?綺麗な人だって一瞬ズルい顔やいやらしい顔や意地悪な顔をするんですよ。
その一瞬を切り取ったみたいな描き方が巧みで、大事な子供が崖から突き落とされた伯母さんの憤怒の表情はまさに鬼だ。
それにこれまでは、夫の一郎の親戚一同がキャッキャ楽しそうな場面でも静子と静一の二人だけは他人みたいで、まあ嫁だから微妙な立場ではあるんだけど、二人が遠慮して気を使ってる姿は痛々しいほどだった。
でもそれは静一の目から見た世界だったんだなと気づけば、視点を変えて伯母さんたちから見るとそんな風に見てたんだなって事がわかる。決して二人を仲間外れにしてたわけじゃなくむしろ問題があったのは静子の方だったのだ。
伯父さんもおまえら土下座して謝れって言い出して、この夫婦は結構足並みが揃ってるなあって思ったわ。
それにひきかえ一郎ときたら「違うよ落ち着いて!」などと止めに入り伯父さんに殴られるは、「二人だけで話させてくれえ」とかオロオロするばかりでまったく現実を見ようとしないのだった。
静子はどつかれても肝の座った表情で謝りもしないで「警察に行きましょう」と言うだけだし、やっぱり得体が知れない。
そして一郎に「離婚して。あたしもう戻らないから」と言うのだった。
もうらちがあかね。
しげるには謝らないけど静一には謝る静子だったが、嘘つかせてごめんとか、ひどい事してごめんとか、いいママになれなくてごめんとか泣きながら言うけど真偽のほどはわからない。
いつも静一の気持ちには無関心だったもの。
伯母さんたちが静子を連れて警察に行ってしまい一人残された静一だけど、この巻は物語の転機となっていて、一心同体みたいだった母親と離れた事によって静一に大きな変化が起こるのだ。
警察から事情聴取された静一はしげるが崖から落ちた所はよく覚えてないと嘘をつくのだが、取り調べの警察官から「君は一人の人間なんだよ。お母さんとは別の、一人の人間だ。君が感じたこと、思ったこと、それはみんな君のものだ」と言われる。
これまではママの事しか頭になくて、あまり気づいていなかった自分の存在を意識するのである。
自分が実態を持った一人の人間であると気づいた静一は、実況見分にも積極的に応じるが、これまでずっと謎だった静一の幼い頃に道で死んでいた猫の記憶と小さい時に大怪我をした事があるという伏線が回収される。
早く大人になってしまう女の子と違い、男の子は中学生くらいだとまだ子供っぽい。
思春期の男の子にとっては母親との関係性が大きいのだろう。
だがこの母親は本当に子供がかわいいのだろうか。
子供の感情にちっとも共感する事がないし、子供の存在を受け入れてないように思えるのだ。
静一の自我が覚醒した事はよかったけど、これですんなりと親離れするわけじゃない。
親からマインドコントロールされていた子供はそれがトラウマとなって大人になってからも苦悩するのである。
他の作品もそうだが思春期の懊悩を描く事が作者のこだわりだ。
押見作品を読むたび思う。かくも思春期とは胸苦しいものなのか。
あたしも中学生の頃を思い出そうとするけど、なんだか靄に包まれたみたいでちっとも思い出せない。
集団生活がチョー苦手なんで楽しかったはずないんだけどね、あまりに昔なので忘れてしまったのである。
描いても描いても尽きない思いがこの作者にはあるんだろう。